「それが貴女の本音?」
大和守安定の鋭い眼光が千里を射抜いた。
「そうなんだと、思う」
誰よりも人でありたかった彼女は鬼に身を窶し、夜叉と成り果てた。
明治の世よりひとりだった彼女が自分を保つには、自分自身に嘘をつき続ける必要があったのだ。
もう、自分がわからなかった。
それでも、ひとりが寂しいと感じていたのは、紛れもない本音。
「それならいいや」
安定のどこか間延びした声が響いた。
「改めて言うよ。僕は大和守安定。扱いにくいけど、いい剣のつもり」
「なら、俺も」
安定に習い、姿勢を正した清光も安定に倣って口を開いた。
「俺、加州清光。扱いづらいけど性能はいい感じってね」
「真似すんなよ」
「いいじゃんかよ、別に」
「お前たち仲がいいなぁ。元の持ち主が一緒だからか?」
安定と清光のやりとりを見た鶴丸が口を挟んできた。
鶴丸の言葉に清光は眉を吊り上げ、安定もまた目を細めた。
「仲良くない!」
「互いになにしてもどこか鏡みてる感じで気持ち悪いってだけ」
「似た者同士であることは否定しないけど」
「なるほどね。なら俺ものってみるとするか」
意地の悪い笑みを浮かべた鶴丸はすっと立ち上がり、ひょいっと跳んで一気に千里の手前に降り立った。
「よっ。鶴丸国永だ。俺に見たいのが突然来て驚いたか?」
「ここ三百年で一番の驚きですよ、よかったですね鶴丸」
「ははっ、そりゃあよかった。俺も毘沙門天の眷属が主になるとはこの上ない驚きだぜ」
そのやりとりにそう思えばと、清光が声を上げる。
「そのさ、毘沙門天の眷属の話、俺詳しく聞きたいんだけど」
「なんだ、知らずにそばにいたのか」
「いや、なんというか、」
聞きづらかったのと忘れていた、などと本人の前で言えるわけもなかった。
「安定は私が鬼であったことは知っていましたよね」
「まあ、あの時、西本願寺に僕だっていたからね」
「あの後の歴史は一通りご存知ですか?」
「戊辰戦争と、箱館で旧幕府軍が降伏したって話? 今日貴女に会うまでは、貴女も土方さんもそこで死んだとばかり思ってたんだけど?」
「……確かに、トシさん……土方さんは歴史通り、あの日亡くなりました。この私の手の中で」
その言葉を聞いて二振りの顔には苦渋の色が滲んだ。
「人としての碧月千里はあの時、土方さんとともに死にました。鬼として私は生き延びてしまったんです。ひとつの呪いとともに」
「呪い……?」
「えぇ。かけがえのない、呪いです。結果今の世まで生き延びた私は夜叉となり、毘沙門天の眷属へくだりました。夜叉や本来の意味での羅刹は、毘沙門天の眷属です」
「だから、既に神の領域に足を踏み入れてるから真名を教えてもいいと思ったわけだ」
「それでも、信頼たりえると判断したからですよ」
「十分さ」
神隠しする予定も度胸もないしなと笑う鶴丸に、清光は眉を吊り上げた。
「あっ、そう思えば千里さん。今日の本丸、ランク参がどうとかって言ってたけど、あれなんだったの」
「丁度良く思い出しましたね清光」
千里もそうそうと思い出すように口を開いた。
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