御旗 | ナノ




五虎退がペコリと頭を下げて門をくぐっていくのを見届けた。
本丸内に残っているのは楽と清光、それから大和守安定と鶴丸国永だけである。

「本当に世話になったな」
「こちらこそ。協力いただけたからです」
「そう改まって礼を言われるとなんだかむず痒いな」

にへら、と笑う鶴丸国永につられて楽も表情を緩めた。面で隠れていても、その表情の変化には、そこにいた誰しもが気がついていた。

「それで、どうすることにしましたか」

楽は鶴丸国永に問うた。
つまり、刀解か連結か、である。

「おう、決めたぜ」
「そうですか、それはよーー」
「お前さんのところに行くことにした」
「ーーは?」

その場の空気が一瞬にして固まった。
最初に動いたのは、清光だった。

「何言ってんのそんなのありえないんだけど!」
「お前さんがありえてるんだからありえるだろう?」
「ぐっ」

そう、もう加州清光という前例は出来上がってしまっているのだ。

「おっと、政府役人にももう話は通してあるぜ? 驚いただろ?」

まず間違いなく、楽が今日という一日で一等驚いた瞬間だった。

「政府役人が、了承した、と?」
「暫くは以前の加州清光のように保護観察対象になるとは言っていたがな。まあひと月程度なんだろ?」

これもその通りである。
加州清光はすでに保護観察対象外となっていた。今の本丸でも問題なく過ごせるという許可が下りたのだ。

「ですが、」
「俺は刀の時代、至る所を転々とした。名のある戦国武将、神社、墓の中、墓荒らしにあって盗まれたこともあるし、最終的には御物として献上された。どれもこれもスリルがあったが、当たり前だが俺の意思じゃなかった。勿論、ここの本丸にいることもだ」

元は刀。持ち主を刀自らが選ぶことは、ない。

「せっかく人の身を手に入れて、自由気ままに動けるようになって、口もきけて、感情っていうのか? をもって。それで好きに歩いてぶっ倒れたらそれまでさ。なぁ、頼むよ」

楽は困ったように頭を掻いた。
自分は審神者ではないのだ。審神者名は使うがそれはあくまでも相手をしているのが神であるからでしかない。顔を面で隠しているのも然り。
今の時代でいう”審神者”の仕事もしていなければ”刀剣男士”の本分である仕事を請け負っているわけではない。
確かに、政府内部にも同じようにそれ以外のために働く刀剣男士もいるらしいが、楽は決して喜び勇んで今の仕事をしているわけではない。

「ここで話していても、埒が明かないようなので、一先ずうちの本丸に来てもらうことにしましょうか」
「主!」

清光が思わず声を上げるが、すでにどうしようもないらしい。

「五条が作の刀の主になる予定なんて、なかったのですがね……清光でさえそうなのに」

楽は、はぁ、と重たい溜息を吐いた。

「ーーそれで、お前はどうすんの」

清光のゆるくつり上がった瞳が大和守安定を射抜いた。
大和守安定のまんまるな瞳が、清光を見つめ直す。

「お前だけが、この人と一緒にいて話を聞けて、なんで僕はお払い箱にされなきゃいけないのさ。不平等だと思わない?」

だよね?
そうやって楽を向く大和守安定に、楽も頷かざるを得なかった。

ーーあぁ、どうしてか、その笑みが沖田総司そのものに見えた。






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