本丸内の刀剣たちは思い思いに再開の余韻に浸っていた。
また別のところでは、違う意味での再会が起きていた。
「名簿には載ってなかったじゃん、お前」
「名簿って何。あの部屋作ったのが僕と鶴丸さんなんだから当然でしょ。一ヶ月もあんな穴蔵にいたから、眩しいったらないなぁ」
大和守安定。
切れ味がものすごく、幕末の志士たちに好まれた。
沖田総司も、その一人。
「大和守安定。名前だけみたときは、大石鍬次郎か八郎かとも思ったが、姿見をみるに、やはり総司が使っていたもののようだね」
「そうだ! 聞いて驚くなよ! この人はーー」
「こんなところで話すことじゃないだろ」
「なっ、お前……!」
「大和守安定の言うとおりですよ」
「うっ」
興味がないように振舞っているが、大和守安定の視線はずっと楽から離れないままだった。
何も言わないから気づいていないのかとも思ったが、やはり気がついていたのだろう。
この鬼面を被った女が、碧月千里であることに。
「楽」
肩をトントンと叩かれ振り向いた先には鶴丸国永。
綺麗な笑みを讃えていた。
「さっき役人の奴らが来て、主を連れて行ったところだった」
「そうですか」
「すぐに本丸内の刀剣回収に移るそうだ」
「貴方は……」
「あーー……ひとまずチビ共をなんとかしてからだな」
何かをごまかすように視線をそらし、頭を掻く鶴丸国永に首を傾げつつ、楽は改めて辺りを見回した。
「活気がありますね」
「まあ、元は刀だってことさ」
「?」
「無理するのも辛いし、折れるのも怖いが、戦いは嫌いじゃなかった、そういうことさ」
この本丸の主はきっと、刀剣男士を文字通り刀だと思っていたのだろう。
物を斬るための道具。一種の装飾品、コレクション。
それでも人の身に顕現されて、自らの手で自身を振るうという行為はたまらないものがあるのだろう。
特に付喪神としておろすことのできるものたちは、その想いも大きいに違いない。
「とはいえ、チビ共には無理をさせちまった」
「貴方もでしょう、鶴丸国永」
「まあ俺は、太刀だからな」
「そうですか……ひとつ、きいてもいいですか」
「なんだい?」
楽はそっと鶴丸国永へ耳打ちをした。
「なぜ、大和守安定が、貴方に手助けを?」
楽が抱いていた一番の謎だった。
かつて沖田総司が握ってた愛刀。つまり実践刀なのだ。
その彼が一ヶ月もあの穴倉に引きこもることを選択したのにはなにか、訳があったのではと。
「俺も詳しくはわからんが、そうさな」
んー、と思案する鶴丸国永は、同じく楽に耳打ちをした。
「生きたい、そういう意思がこの本丸じゃあいつが一等だった。俺が言えるのはそれだけだ」
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