御旗 | ナノ





 二人が歩くのは政府の施設であった。
 同じ国、例えば相模国から相模国移動であれば簡単に行えるのだが、別の国へ移動する時には政府施設を利用しなければならない。

「歩きながら本日の説明を行います。一回しか言いませんからよくお聞きなさい」
「はい」

 からんころん。
 千里の履く下駄の小気味好い音を響かせる。

「まずは注意事項。わかっていると思いますが本丸を出た今、私のことはちゃんと楽と呼ぶように」
「わかってるよ」

 昔の顔なじみ故に今までは真名で呼んでいたが、それは内輪だけの話である。
 外に出た今、それは許されない行為だ。
 有名な言葉にこんな言葉がある。

 名とは一番短い呪。

 かの有名な安倍晴明が残したと言われる言葉である。
 咲いている花に対して藤と名付ければ、それで皆、藤と呼ぶようになり、それは呪いになる、というものだ。
 人同士ならいざ知らず、審神者が扱っているのは曲りなりにも神なのだ。
 神に真名を握られればそれは恐ろしい呪いになる。
 神隠しに合うのもこの真名を握られたからとされている。

「今回向かう場所は山城国。まあ、京都です」
「本当に遠くまで行くんだね」
「まあ、移動は一瞬ですから」

 国同士の移動は、刀剣たちが時代を超える原理と同じである。寧ろ空間だけであるので、時代を超えるより単純である。
 わかりやすく言えば、タイムマシンよりどこでもドアを作る方が簡単ということだ。

「今回の対象ですが……」
「!」
「昨日も話しましたがランクは弐。罪状は、無理な進軍です。現在報告に上がっているだけで計十四振りの刀剣が折れているそうです」
「十四!?」
「しかしこれはあくまでも”報告に上がっている数”です。もしかすると、もっと多い可能性もあります」
「……」

 審神者には最低週に一度の報告義務がある。
 資材の増減、金の支出、戦績など。
 勿論拾った刀や鍛刀した刀の報告もする。
 ーー折った刀の数も、だ。

 刀を折ったからといってブラック本丸認定されるわけではない。
 要観察対象にはなるだろうが。
 折った頻度や回数、刀種をデータ化し、とある閾値を超えて初めてブラック本丸と認定される。
 今回の本丸はその閾値を超えた、ということだ。

「手負いの刀剣が多くいる可能性があります。そのため戦闘発生の可能性は低いと思われますが、早急の対応が必要とされています」
「現存の刀のリストはあるの?」
「こちらも、どこまであてになるかはわかりませんが」

 渡されたのは一枚の半紙。どうやら書かれているのが、今向かっている本丸にいる刀剣男士の一覧らしい。

「ーー少ないね」
「清光は、十四振り折られていると聞いて、多いと感じましたか」
「そりゃ、多いなって……折るなとは言わないし、その審神者のせいじゃなく、刀剣自身のせいだってあるから一概になんとも言えないけど……」
「例えば、三年目の審神者だったらどう思いますか」
「あー……長年の積み重ね? にしては無能な気もするけど」
「そう、まあ多少長い時間審神者をしていれば塵が積もる……」
「ねえ、何が言いたいの……」
「ーーこの審神者は就任して三月です」
「は、ぁ!?」

 清光は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「まず一週間で初期刀である山姥切国広が折れ、その次の日に短刀であった秋田藤四郎が折れました。政府はこれを重く受け止めたのか、この審神者を一週間の育成プログラムに参加させました。が、効果は出ず、再三の通達があったにもかかわらず、先日十四振り目の報告が出たそうです」
「なんで、こんな」
「それは本人に聞いてみることにしましょう」
「……」
「さ、行きますよ。山城国ーー京都へ」

 山城国と書かれた門構え。山城国へと通じるゲートである。
 千里は通行手形を門番に渡し、清光の手を引いて潜り抜けた。



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