「おいしい!」
清光の歓喜は雨が隠す。
隣の千里にはもちろん聞こえているが。
「それはよかった」
つやつやもちもちとした三色団子の串を手に、嬉しそうに頬を紅潮させる清光をみて、千里もそっと微笑んだ。
千里はそっと匙で、あんみつの寒天を掬って口へと運んだ。
清光が三本目の串を手に取った時に、すっと千里は席を立った。
「千里さん?」
「厠を借りてきます」
「わかったー」
もぐもぐと団子の咀嚼を繰り返す清光は、昔のことを思い出していた。
前の主にして、今の主である千里の唯一無二の親友であった沖田総司のことだ。
普段はにこにことした笑みを浮かべ、よく近所の童と遊んでいた。
いい子、ではなかったし、よく副長相手に悪戯もしていた。口も良かったとは言えない。
一度剣を握れば、それこそ人が変わったかのように厳しい人間になる。
そんな彼は甘味を好んで食した。
食が細く、夕食もそこそこに酒を飲むような男だったが、それもこれも八つ時にひとりで甘味を食べていたことも原因だろうと、そばにいた清光は常々思っていた。
「美味しそうに食べてたもんな」
刀であった頃は、物を食べるなんてこともちろんなかった。
美味しそうだなと思ったことはあるが、こうして人の身を得て食べることができるなんて、あの頃の自分は思いもしなかったとひとりごちた。
「お待たせしました」
「あ、おかえり」
「お団子、満足しましたか?」
「さすがに食べ過ぎたかもねー……」
計五本の団子を食べた清光は自分のお腹をさすった。
「夕餉食べれますか?」
「食べるよ! 千里さんが作ったご飯だもん」
「ふふっ、ありがとう」
「ーーそういえば」
「?」
さっきまで沖田のことを思い出していたからか、よぎった出来事。
「いくら八つ時に甘味を食べても、千里さんが料理当番のときのご飯はちゃんと食べてたなぁ……あの人」
「……総司、ですか?」
「……うん」
千里は懐かしむように空を見上げた。
「そう思えば、そうでしたね」
目をつぶれば鮮明に思い出せるあの時のこと。
もう三百年以上も前のことなのに、一番鮮明に思い出せる思い出があの頃のことだった。
「聞いたことがあったんですよ、私が当番のときはちゃんとご飯食べてくれるよねって」
「沖田くん、何て答えたの?」
「ーーさぁね、と。はぐらかされましたよ」
「あぁ見えて恥ずかしがりだから」
「天邪鬼なんですよ」
思い出話は、尽きることがなかった。
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