御旗 | ナノ





 雨のせいで人通りのまばらな市中。朱い番傘と白い番傘がふたつ揺れていた。

「思ったより雨足弱くてよかったね」

 朱い番傘をくるくると回しながら歩く清光。朝方に比べればだいぶ雨足は弱くなっていた。
 雨ということもあり千里は袴姿であった。
 白い着物に赤茶色の武者袴。雨下駄でいつもよりゆったりとした速度で歩いていた。

「そうですね。昼餉は美味しかったですか?」
「すごく!」

 昼九ツより前に本丸を出立した二人は、まずは腹ごしらえと一軒の蕎麦屋に入った。
 千里は狐掛け蕎麦を、清光は天ぷら蕎麦を頼み食した。
 つゆの味は相模だからか、どこか懐かしい江戸の味がした。

「京都での生活もそれなりに長かったですが、江戸のお蕎麦の方が美味しく感じるのはやはり故郷の味というものなのでしょうね」
「かもねー。刀だから故郷とかないけど、沖田くんも江戸のつゆのほうが好きだって言ってからね」
「新八さんも生粋の江戸っ子でしたから、お醤油のきっぱりした江戸のつゆの方が好みだって言ってましたね」
「言ってた言ってた!」

 くすくすと笑うたびに傘が揺れて雨粒が弾ける。

「先に乾物を買いに行きましょう」
「賛成」

 普段ならば店先にまで台を置き、それでも所狭しと乾物が並ぶ乾物屋も、雨とあってはそれができない。
 雨除けをされて、どこか閉塞的に見える店に足を踏み入れた。
 店先で傘を閉じて露を払って壁へと立てかける。

「ごめんください」
「へい。これはこれは、審神者殿。雨足の悪い中ようこそ」

 相模ともなれば審神者も多く、その姿見と連れ立っている刀剣男士の姿で審神者であると店側もすぐに理解する。
 とはいえ、この乾物屋は千里が相模に来てすぐから贔屓している店でもある。

「鰹節がきれてしまってね。それから昆布と干し椎茸も少し包んでくれないか」
「へい、只今」
「他にお勧めはありますか、店主」
「そうですな……ちりめんじゃこなんかいかがでしょう」

 そういって店主がだしてきたのは綺麗に袋詰めされたちりめんじゃこ。

「ちりめん山椒もございます」
「ご飯が進みそうだね」
「香り豊かで、お好きな方は毎度お買い上げされるのです。ただお料理として応用が利くのはやはりちりめんじゃこの方でしょうか。昆布とお醤油で炊かれる方も多いようです」
「他には?」
「ご飯のお供というのであれば、ゆかりがございますね」

 ちりめんじゃこの隣に置かれた、紫色のゆかりに清光の視線は釘付けである。

「じゃあ、ちりめんじゃことゆかり、それから白ごまも一緒に包んでくれないか」
「毎度ありがとうございます」

 買ったものは濡れないように乾燥剤とともに綺麗に箱に詰められ、ご丁寧に風呂敷にまで包んでくれた。

「ここまでしてもらって、ありがたい」
「とんでもございません。これからも是非、ご贔屓に」

 薄紅色の風呂敷に包まれた箱を清光がうけとる。
 千里はぱんっと番傘を開き、清光に手渡してやった。

「あ、ありがとう!」
「片手がふさがってしまっているからね、当然だよ」



15

前頁 次頁





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -