離れから本邸へと戻れば、本丸内にはすでに政府のものが足を踏み入れていた。
楽を認めた政府役人は一礼すると、直ぐ様刀剣男子の統率を行い始めた。どうやらへし切り長谷部がまとめあげていた成果もあり時間はかからないように見えた。
「ここの刀は、どうなるの」
政府役人に連れて行かれる刀剣男子、そしてヒトの姿を保てなくなっていた刀たちが本丸外に連れて行かれる光景を目の当たりにした加州清光が口を開いた。
ひとときの沈黙の末、楽は口を開いた。
「選択肢を与えられます」
「選択肢?」
「刀解するか、練結に用いられるか、他の本丸に移動するかです」
「特別、いい待遇だとは、思えないね」
「でしょうね」
ほとんどの刀がすでに本丸を後にしており、本丸内は静かになっていった。鬱々とした空気はもうそこになかった。
最後に残ったのは打刀や太刀といった大振りの刀たち。燭台切光忠と話をしていたへし切り長谷部が、楽に気がつき近づいてきた。
「この度は御無礼を働き、申し訳ございませんでした」
直角に腰を折り、頭を下げたへし切り長谷部。
そんなへし切り長谷部をみて、楽は声を上げた。
「謝罪より、感謝の方が嬉しいです」
「あっ、ありがとうございました……!」
さらに深々と頭をさげるへし切り長谷部に楽は思わず笑い声を漏らした。
「……ところで……加州清光、お前はこれからどうするのだ」
同じ本丸のよしみか、打刀同士思うところがあるのか、へし切り長谷部は加州清光へと問うた。
「お、れ?」
「あぁ、ちなみにだが、俺は刀解されることを選んだ」
「なっ! な、んで……?!」
決して多くはない選択肢の中で刀解を、つまり、その形を捨てることを選んだへし切り長谷部。
その選択肢を選ぶとは思っていなかった加州清光は瞳がこぼれ落ちそうなほどに目を見開いた。
「……いや、賢明な判断でしょう」
「……え? なんで……?」
「ーー刀剣男子とは、審神者の力によって現に形を作っています。ここの本丸の刀たちは、ここの本丸の審神者の力で作られたも同然。別のところに行ってもうまくいくとは限らない」
「そ、うなの?」
「己の持つ力とは別の力の流れを感じることになります。それに耐えられるかどうかは刀次第。リスクを考えれば、へし切り長谷部の判断はある意味で賢明とも言えます」
「そんな、」
愕然とする加州清光に、へし切り長谷部は優しく諭した。
「これはあくまで俺の判断だ。お前はお前の好きにするといい」
そう言い残すとへし切り長谷部は踵を返して、政府役人と本丸を後にした。
「さぁ。加州清光もお行きなさい。時間は与えられるだろうから、ゆっくり考えるといい」
「……」
ほんの一時の間にあまりにも多くのことが起きた。
加州清光は思い悩むように、それらを噛みしめるようにうつむいていた。
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