御旗 | ナノ





 あまり大きくはない家であった。
 必要最低限の部屋だけ。精々二人で暮らすのに丁度いいくらいの家。客間は縁側がついており、桜前線通過中であった庭先には桜が咲き誇っている。

 客間におかれた机には湯気立つ湯呑みが置かれる。
 出されたものは飲むのが礼儀だが、飲めるような空気ではなかった。
 意を決して男たちが口を開く。

「先ほどお見せした映像は御察しの通り、政府公認である審神者殿が刀剣男士達に対して行っている非道の数々です」
「我々はこのような所業を行っている本丸を、昔流行した言葉を用いまして”ブラック本丸”と呼称することにいたしました」
「ブラック本丸で行われていることは様々ですが、その多くは先ほどの映像にあったように、審神者が刀剣男士に夜伽を強要したり、手入れを怠ったり、あとは無理な進軍行為などが挙げられます」
「貴方達は、それを野放しにしていると?」
「再三の通告はしておりますが、あちらは審神者であり、本丸にはその力で結界が貼られております」
「政府とはいえ、その結界への介入は非常に難しい」
「御託はいいのです」
「「「!」」」

 ギロリと睨まれた男たちは固唾を飲み、固まった。女からは殺気が漏れていた。

「大方の事情は把握しました。そのブラック本丸が増加しているのでしょう。それを、私に何とかして欲しい……そういうことですね?」
「はっ、はい……その通りにございます……」

 睨まれた男たちはそれぞれ背中に冷や汗を流していた。
 言葉自体は丁寧。しかし、その言葉の端々には棘がある。
 何より彼女は、歴戦の猛者なのだ。

「ひとつだけ、確認しても?」
「な、なんにございましょう」
「先ほどの夜伽の相手……あれは”和泉守兼定”ですね?」
「!」
「な、なぜお分かりに……」
「やはりそうなのですね」

 男たちの反応を見て、碧月は自分の感じていたものが正しかったのを証明して見せた。

「わからぬはずがないでしょう……あれは、敬愛したあの人の懐刀なのですから」

 碧月は自ら煎れたお茶を飲み下した。
 中身のなくなった湯呑みが鈍い音を立てて机に置かれる。

「今回の話、お受けいたしましょう」
「ほ、本当でございますか!」
「あ、ありがたい……!」

 男たちのかをが喜びに溢れる。今の今までずっと断られ続けた相手なのだ。
 その喜びを一蹴するように声が飛ぶ。

「ですが、条件があります」
「じょ、条件、ですか……何でしょうか……」
「まず私は、審神者にはなりません」
「どういう、」
「そのブラック本丸を討つことだけ、それが私の役割です」
「で、ですが、」
「……いいでしょう。そのように取り計らいます」

 男たちの中で一番偉い人物なのだろう。男はそう口を開いた。

「それで、私はどこに行けばよいのですか」
「住居などはこちらで用意いたします。場所は、相模国」
「相模とはまた、随分とにぎやかそうな場所へ越すことになりそうですね」



5

前頁 次頁





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -