花宮真という男はある意味で誠実だと名前は語る。とある人は花宮真のことをバスケに不誠実な男と表現したが、ではバスケに誠実とは一体なんなのか。名前は度々そう口にしていた。
だからといって花宮真のことを庇護しているわけではない。そのやり方を良いものだというつもりも名前にはなかった。
つまり何が言いたいかといえば、花宮真もただの人だということだ。

「は?」
『だから、これ、誕生日プレゼントね』

冬休みも終わりを告げて数日。ウィンターカップも既に全日程を終了しており、どこか部の雰囲気も緩くなっている様に感じられていた今日この頃。
部活を終え、部室で着替えをしていた花宮に名前が手渡したのは紙切れ5枚。別に紙幣ではない。言うなればノートの切れ端、またはルーズリーフだろうか。その紙切れにはペン先0.5で書かれた文字が。

「俺はジジィかよ、バァカ」
『いっつも肩肘張ってる我がバスケ部主将様に楽してもらおうっていう私の優しさがどうして伝わらないかな』
「“肩たたき券”とか馬鹿にしてるだけじゃねぇか」

嫌に達筆な字で書かれた“肩たたき券”の文字にイラつきを隠しきれない花宮。17歳の誕生日だというのにこの仕打ち。今日は母の日でもなければ父の日でもないし、もっと言えば敬老の日でもない。

『だってケーキ買ったって食べないじゃない。だからって変に考え込んでプレゼントあげるよりはこの方がいいでしょ?』
「なら“言うこと聞く券”くらいにしとけ」
『嫌だよ、何言われるかわかんない』

どうせ花宮のことだ、無理難題を押し付けてくるに違いない。そう名前は思い、あえてこうして小言を言われることを承知で肩たたき券を用意したのだ。

『その代わり5枚もあるのよ?有効期限は今年一年。お得じゃない』
「いらねえよ」
『肩こってんじゃないの?』
「お生憎様、肩はすこぶる健康だよ」

ふっ、と名前に向かい鼻を鳴らす花宮にムスッと頬を膨らませる名前。

『“言うこと聞く券”なら発券数1枚で期限は今日中だよ?今日はあと6時間もないけど?』
「あぁ、それのほうがいい」

ニヤリといつものように口元を歪め笑う花宮にため息を零す名前は花宮の手から肩たたき券5枚を分捕り、その内の一枚の裏側に胸ポケットに入っていたボールペンで“言う事聞く券”と書き殴り花宮へと叩きつけた。

『これでいいんでしょ?』
「あぁ、ありがとう」

花宮は満足げに叩きつけられた“言う事聞く券”をヒラヒラとさせ弄ばせた。

「それじゃあ、早速だけど」
『は?もう使うの……!?』
「今日中なんだろ?」
『そうだけど』
「じゃあ、ホラ」

そう言ってまた名前のもとへと戻ってきた“言う事聞く券”は名前の手のひらの中でクシャリと悲しげな音を立てた。

『で?ご用件は?』

嫌な予感しかしないと眉をひそめる名前を尻目にいつも以上に楽しそうに笑みをたたえる花宮。名前は瞬きをした。その瞬きの一瞬で名前の頬には花宮の手のひらが伸びてきていた。

『ッ』

花宮は綺麗な顔立ちをしている。トゲがないスラリとしている容姿はどこか中性的だが、やはりパーツ一つ一つは男のソレで。それでもポジションの関係なのか手入れの届いている指先は女顔負けに綺麗で。
そんなことを考えているうちに花宮の顔は自身のすぐ横まできていて、名前は体を硬直させる他なかった。

「緊張することない。簡単な命令だから」
『っなに、』
「今日、うちに泊まりに来い」
『!』 
「それだけ。簡単だろ?」
『言葉だけなら、ね』

無理難題だと、名前はひっそり心の中で頭を抱えた。

どうなるかなど、わかりきっているのだから。



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Title by 東の僕とサーカス


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