悲しみを拭うその手は、 | ナノ





『何年振りだろ…。久々だな…木の葉の里は…』


里の近くの高い木の上で、先代の火影の顔岩に挨拶をする。

長期任務で1年近く里を開けていたけれどあまり変わっていないようで安心した。


『報告書はあの二人で書くだろうし……とりあえず、三代目のところに』


暗部の仮面を被り直し、改めて木の葉の里の門へと足を運ぶ。


「あ!“夕理”さんだ。」

「お疲れ様です」

『いえ、コテツさんとイズモさんもお疲れ様です。あ、カカシさんに帰ってきたこと伝えておいてくださいませんか?今から三代目のところへ行かなければならないので……』

「全然任せてくださいよ!」

『ありがとう、では」


門番をしていたコテツさんとイズモさんに声をかけて頼み事をすれば二つ返事で了承をしてくれた。私は二人に礼をいい、私の帰りを持っているであろう三代目のもとへと向かった。


辿りついた火影の部屋。私はノックを3回。中からの返事を待った。


「入れ」

『……失礼します。暗殺戦術特殊部隊総隊長、“音無の夕理”只今長期の任務を終え、帰還いたしました』

「おぉ……」


椅子に座り私を見やるその姿は1年という月日を感じさせないほどに変わっていなかった。優しげな目を細める彼こそが三代目火影である猿飛ヒルゼンだ。


「ようやく終わったか……長かったのぉ」

『申し訳ございません。情報よりも人数が多く』

「いいのじゃいいのじゃ。戻ってきたのじゃからの」

『三代目……』

「報告書は?」

『後で“朝灯”か“昼真”が持ってまいります』

「そうか」

『……』

「戻ってもいいぞ?」

『ですが、今は暗部ですので…』

「どうせ誰も来んわい」

『……』

「疲れておるじゃろう?チャクラの使い過ぎはよくない」

『……わかりました』


私は言われるがままに変化を解いた。


「やっぱりそっちの方がしっくりくるのう」

『一気に視界が低くなりました…』


私は今12歳だが、さすがに暗部の仕事をする時には変化の術を使い20歳前後くらいの容姿へと姿を変えている。

1年間もの間変化の術を続けていたため、元の姿に戻ったはいいけれどその視界の低さに違和感を抱いた。

そんな私の姿を見て、もともと皺がたくさん刻まれた顔にさらに皺を増やして笑う三代目に私も笑うしかなかった。

そんな時だった。


私の背後の扉が大きな音を立てて開いたのは。


『「!?」』

「スズランっ!」


振り向けば感じる衝撃。視界が暗くなる。

知っているその感触や匂いに安心感を覚える反面、その息苦しさに焦るしかない。


『う!か、カカシさんっ……い、いきなり』

「おかえり」

『あ……ただいま、です』


頭上から降ってくる優しい言葉に自分の頬が緩むのを感じた。

私を幼い頃から見ていてくれたカカシさん。時には親のように時には兄のように時には先生として私に優しさをくれた人。


「こらこらカカシよ」

「あ、三代目、申し訳ありません、つい…」


呆れた声が聞こえる。その声にようやく我を取り戻したカカシさんは困ったように頭を掻いた。


「はぁ……相変わらずの溺愛ぶりじゃの」

「ハハハ…」

『任務はなかったんですか?こんなに早く…』

「午前中だけだったんだ。もう今日はないよ。今日はうちにくるんだろ?」

『…いいんですか??』

「もちろん!何食べたい?」

『カカシさんの食べたいものでいいです!』

「わかったよ」


そう言ってポンポンと私の頭を撫でるカカシさん。


「もういいかの?カカシ」

「はい、それでは」


ニッコリと笑ったカカシさんは部屋をあとにした。



「相変わらずじゃの…」

『ハハハ…あえて否定はしません』


緩い雰囲気に、ようやく帰ってきたんだなと実感する。

しかし次の瞬間にはその空気が緊張感に包まれた。


「…それでじゃが夕理に長期任務を与えたい」

『は……この夕理どんな任務もこなしましょう』

「そうか…今回の任務は特S級の超極秘護衛任務じゃ」

『……護衛?』

「そうじゃ。一週間後、新たに下忍になる“うずまきナルト”と“うちはサスケ”の護衛任務をしてもらう」

『!?』

「どうじゃ?」

『…それはどういう風に遂行すれば…』

「夕理には下忍になってもらおう」

『は!』

「一週間後に説明会がある。第七班の一員として任務をこなしてくれ」

『御意』

「…それでなんじゃが…」

『変化についてですね』

「あぁ」

『女より男がいいかと。護衛相手も男ですので。名前は…』

「“白羽 カズハ”それがお前の名じゃ」

『は!』

「この任務…受けてくれるな?」

『御意。三代目の意のままに』


私は膝を付き、三代目に頭を垂れた。






私は真っ直ぐカカシさんの家には向かわずに、里を一周することにした。と言っても元の姿のままに回ることはできないので暗部時になっている姿で。


『……平和、だなぁ……』


私のいる世界とは、全く違う世界に見えてくる。眩しい、眩しい世界。思わず目を細めてしまうほどに。


『あ、お団子屋さん……すいません!みたらし団子……二本ください!』

「はい、少々お待ちを……どうぞ、みたらし団子です」

『ありがとう』


行きつけだったと記憶しているお団子屋さんは、全く変わっていなかった。

兄が、兄さんが大好きだったお団子。まだまだ子供でわがままだった私の手を引いてここのお団子を買ってくれた。


シャランと、首にかかっているネックレスが、兄さんとおそろいのネックレスが少しだけ揺れた気がした。




気づいたころには満月が夜空に光っていた。

その月すら今の私には眩しすぎた。


血塗られた手。


この血はもう二度と取れないのだろう。


『?』


キィンと森の方でクナイや手裏剣の金属特有の音がした。


私は好奇心に負けて森へと足を進めた。


「はぁ!!」


まだまだ小さな体から飛んでいく手裏剣の数々。それは周囲の木々に突き刺さってゆく。しかし木に置かれた的に刺さっているものはその中でも少ないように見えた。


「チッ!糞っ!!」


その姿は、私自身が一番恋焦がれていた姿。

サスケだった。


ここは昔、サスケと兄さん……イタチ兄さんと一緒に練習をした森。


「…もう一度だッ!」


声をかけるわけにも行かない。私がかれに出会うのは、今ではない。

このまま彼を見つめたって、ただ、悲しくなるだけ。


私は踵を返し、森をあとにした。





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