ネクロス領土はオルガ大陸でも北に位置するため、桜があるだなんて思ってなかった。
『綺麗……』
「拙者が植えたのだ」
『うそだぁ』
「嘘だ」
『………』
桜に見惚れていれば背後には将軍であるヌーゴ様が立っていて。何故かはわからないけれどヌーゴ様には桜がにあっている気がした。
『お花見したくなりますね』
「するぞ?」
『え?そうなんですか?』
「あぁ。多分」
『………』
「ヌーゴ様!詰め終わりました」
すると城の方から一人の兵士が走ってきてヌーゴ様にそう叫んだ。兵士はいつも身につけている鎧などではなく白い割烹着が身につけられていた。
「ご苦労」
『お花見、するんですね!』
「あぁ。お前はアルケインでも呼んで来い」
『はい!』
春の陽気が気持ちよくて、思わず駆け足で城に向かった。
『アルケイン様』
「どうしたんだい?名前。すごく楽しそうだね」
『はい!ネクロス領に桜の木なんてあったんですね』
「あぁ、あったね。で、どうしたんだい?」
『お花見でもどうかなと思いまして。ヌーゴさんと話していて』
「お花見ですか。ワインが進みますね。行きましょう」
『はい!』
二人で桜の木の場所まで行くと、すでに多くの兵士であふれていた。一般兵はブルーシートの上でどんちゃん騒ぎ。将軍、陛下や周りの直属兵は赤絨毯の上だった。
「おそいよ!アルケイン!」
「遅くはないはずなんですけどねぇ」
『もうこんなに…』
「早く座れ。食べ物がなくなるぞ。これは本当」
「座りましょうか。名前」
『はい』
「アルケイン!お前そんなにワインを隠し持っていたのか!」
「陛下、隠し持っていたなんて失礼ですよ。ちゃんとセラーに入れてたんですから」
「クリスティーにもちょうだい!」
「クリスティーはまだ未成年でしょう」
「けちー」
『クリスティー様。搾りたての葡萄ジュースがありますから、それをお飲みください』
「ありがと!名前」
『いえ』
そのあとも、みんなでバカみたいに騒いで。戦争なんて、頭からこの時は頭からなくして。
長い時間居たんだと思うけど、すごく短く感じた。
ヌーゴ様の料理に舌鼓を打ちながら、カイゼル様の武勇伝を聞き、クリスティー様のいたずらを兵士で大笑いしながら見た。
「…名前」
『アルケイン様?』
「こっち、」
『あ、はい』
アルケイン様に手招きされて桜の木の幹に近づく。
「座って」
ポンポンと隣をたたく。
『失礼します』
「はい、名前のグラス」
『あ…』
心地の良いワインを注ぐ音が耳に響く。
「…名前と飲みたくてね。いいだろう?」
『もちろんです…!』
「じゃあ乾杯」
『乾杯』
「桜の下でワインも…なかなか風情がありますね」
『そうですね』
春風がアルケイン様の輝く金髪をそよがせた。桜の花びらが舞う。
なにか、一つの絵画のようだ。
「…名前?」
『あ…いやッなんかその…』
「クスッ…どうしたんだい?」
『あ、アルケイン様にその…見とれてました』
「本当かい?嬉しいなぁ」
『あ……っ』
「でもね、名前。僕も君に見とれてるよ。桜がよく似合う」
『そ、そんな…!』
「ククッ…真っ赤だな。ワインのせいじゃあないだろう?」
『うぅ……っ』
春風が、二人の間を通った。
桜の木の下で
二人を見ていたのは、
桜の木だけ。
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