昔から同志だった一人の女がいた。
女だがそいつは武士だった。そいつは総司と仲が良かった。昔から俺を二人で俺をからかって遊んでいた。
そいつは京にもついてきた。初めは俺も近藤さんも反対だった。それでもあいつは折れなかった。
京で浪士組として活動を始め、新選組と名を改め、幸せとは言えねぇが、夢のような日々が続いた。
だが、それも今の状態からすりゃあ幸せだったのかもしれねぇな。
会津に入って、俺もそいつも心身ともに疲れ果てていた。近藤さんが死んで、特にだった。
それに、総司ももう、そこにはいなかった。
その日は、雨だった。
夏の日の会津を、ほんの少しだが涼しくしているような雨だった。
俺とそいつ、名前はそんな雨の中、傘も差さずに歩いていた。洋装が濡れようが関係ねぇ。ひたすら雨の降る道を歩いていた。
『……っ?』
俺の二歩ほど後ろを歩いていた名前が急に立ち止まった。何事かと思い振り向いた俺は、目を見開くしかなかった。
「名前、どうした……」
名前は泣いていた。
雨だと言われればそれまでかもしれねぇが、確実に名前は泣いていた。
大粒の涙を一粒、頬に伝わせていた。
『……』
名前は無言で俺とは違う方向を向いた。どこをむいているのか、俺はわからなかった。視線をやってもそこにあるのは山だけだ。
だが、次の呟きで俺は名前がどこを向いているのかを悟った。
『総司………』
「!」
名前が向いているのは江戸の方だった。
その時の俺は何故名前が江戸の方を向き総司の名を口にしたのか。そして、雨に紛れながら涙を流したのか理解できていなかった。
名前はそのまま会津に残った。俺は仙台へと向かった。
そして仙台へと入って聞かされたのは総司の死だった。
慶応四年五月三十日、日比谷の植木屋で息を引き取ったそうだ。
そして俺は思い出した。
名前が総司の名を口にし涙を流したのも、この日だったと。
慈雨
あぁ、今日もまた雨だ。
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