ここのところ残業続きで、家へとたどり着くのは日を跨いだ後だった。

なによりも疲労が上回り、早く家に帰ろうと家路を急いだ。そして何もせずにベッドに潜ろうと柄でもないことを頭に巡らせる。


一人暮らしのマンションへとたどり着き、エレベータに乗り込む。


自分の部屋の前までなんとかたどり着き鍵を取り出し差し込む。

そこで感じた違和感。



「(開いている……?)」



鍵がかけられていないようだ。しかし俺は朝、鍵をかけた記憶がはっきりと残っている。

慎重に、音を立てないようにドアノブを捻り扉を開けた。



「……フ」



そして俺は思い出したのだ。

この家の鍵を持ったもう一人の存在を。



リビングへと入れば、ソファーに体を沈めている女が一人。



「なぜ連絡を入れなかった?」

『うわっ!びっくりしたあ!物音くらい立てて入ってきてよ!』

「朝かけたはずの鍵がかけられていなかったら誰だって警戒する」

『あ、そっか』

「連絡を入れればこんなことにはならなかっただろう」

『驚かせたかったっていうかさ…』

「そんな顔をするな、名前。誰もお前を責めたいわけじゃない」

『うん……』



ソファーの上に体育座りをする名前。しかし、何かを思い出したようで突然立ち上がった。



『ご飯!食べる?作ったんだけど?』

「…あぁ」

『まってて!直ぐにあっためるから!あー、先にシャワー浴びてきてもいいけど?』

「そうする」



家路の途中に感じていた疲労は、名前の顔を見て吹き飛んだようだった。

荷物を置き、着替えを持って浴室へと向かおうとする俺に、背後から声が掛かった。



『あ!キラーぁ!』

「どうした」

『えへへ、おかえり!』

「!あぁ……ただいま」





おかえり、






こんなに嬉しい言葉だとは思っていなかった。


俺はシャワーを浴びながら一人幸せを噛み締めていた。

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