彼は奥手だ。
何を根拠にという話だが、かれこれ10年も一緒なんだからわかってしまう。
奥手というか、真面目というか。生真面目な彼は今目の前で私の膝の手当てをしている。
『いたっ!ちょ、丞!もっと優しく!』
「なら、こんな怪我をするな」
『ごめんって!』
「まったく……」
そして丞はまた消毒液の染みた脱脂綿を擦りむいた膝へと押し付ける。
「こっちは心配をしているんだぞ」
『わかってるよ。この痛みで』
「わかっていない!ならば何故、こんなに傷ばかり作る!」
『それは……』
「俺の身にもなってくれ」
『え?』
「この世のどこに、彼女の傷を見て喜ぶ奴がいる」
『!』
「毎日毎日……俺が保険委員だからいいものの……」
知らなかった。
丞がこんなにも私のことを心配しているなんて。丞がこんなにも私のことを想ってくれていたなんて。
知ってしまえば、感情というものは早いもので、私の心を温かい気持ちが埋め尽くす。
私の膝を見ている丞の顔を見下ろす。
私の位置からは、伏目がちに見える目がたまらなくかっこよくて、キュンとした。
『丞!』
「なんだ」
私は可愛い女の子ではない。
むしろ、毎日傷を作るような奴だ。
だから、こんなことしか言えないけど。
大好きだバカヤロー
目を見開いて顔を赤くする丞にもまたキュンとした。
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