僕はアルエルゴ・V・アルケイン。ネクロス王国の将軍の一人。
今はミナイ海岸の防衛の指揮を任されている。
……はっきり言って、あんまり良い状態とは言えない。相手のテオドアはここ最近勢いに乗っている。
対して僕らは、今ある2つの戦場どちらも防戦一方。
そろそろ、本当に危ない。
『アルケイン様ッ!』
向こうから走ってくるのは、僕の直属軍の一人名前だ。
「どうしたんだい?」
『やはり、劣勢ですね』
「そうか……。さて、どうしましょうか」
今回のこの戦場には戦力にも差がある。この戦場には全ネクロス兵の2割程度しかいない。
どーにか陛下を説得して名前を連れてはこれたけど……。
「とりあえず、1秒でも時間稼ぎをしよう。シズル湖畔の方の防衛成功が今回の目標みたいですから」
そう。
防戦一方であるがゆえに起きた不運の連続。
2つの国から同時に攻められているとなれば、兵が混乱する。
どっちも守らなければ、と
その結果、どっちつかずになりまともな防衛ができず、防衛失敗。悪循環が続いていた。
作戦会議で決められたことはそう、確実に片方の戦場を防衛しきること。この作戦が決行されているのだけど、確実に守りきる方がここではないもう片方の戦場、シズル湖畔。ここの戦場、ミナイ海岸は布石。出来るだけ時間を稼ぎ、テオドアの侵入を遅らせる。これが僕に与えられた命令だ。
『わかりました。弓兵すべて連れて行きますね』
「うん。任せたよ」
『はい』
視界に入るのは真っ青な海。
僕は海を見ながら、ワインをあおった。
テオドア軍の勢いはなかなか止まらない。
僕のいる此処から、名前ががんばっているのが見えるけど、致命的な何かを与えられているわけではない。
でもまぁ、今回は自分の軍の兵を減らされなければいいか。
そう思った矢先だった。
「!?」
さっきまで名前がいたところに爆発が起きた。大きな爆音が遠く離れた僕の耳にも鳴り響く。
魔導が放たれたらしい。
「名前!!!」
僕はそう、大切なあの子の名を叫んだ。
爆発によって起きた煙が薄くなっていき、ぼんやりと人の姿が見える。
「名前!」
僕は堪らず、名前の許へと駆け出していた。
「名前!」
彼女にはまだ息があるようだった。
『ック……!…ア、ルケインさ…まっ…』
「名前!大丈夫かい!?」
柄にもなく声が大きくなるのが自分でもわかった。
「名前さん!」
「名前さん…!俺ら…」
「一体何があったんですか?」
「実は、」
どうやら話を聞いてみると、テオドアの魔導師が魔導を発動。しかし、ここにいた一般兵のほとんどが気付いていなかった。
でも名前だけがいち早く気づいて守護魔導を発動。自分自身を犠牲に弓兵全員を守ったらしい。
話を聞いた後周りをよくよく見れば、名前以外に怪我人はいなかった。
「名前……そこの君、ここを任せても大丈夫ですね?」
「はい、今後やることに関してはすべて名前さんに聞いていますので」
「じゃあ、任せたよ。僕は名前を一旦救護テントまで運ぶから」
「わかりました。」
そういって僕は傷ついた彼女を姫抱きし救護テントへと向かった。
「(…軽い…)」
救護テント内のベッドへと彼女を横たえる。
『ッ…くぅ…!』
彼女の顔は苦痛にゆがむ。
まともに魔導を受けたらしい。
「名前」
『アル…ケイン様…?』
「僕の血を吸うんだ」
『!?アルケイン様っ!それは…!』
「…できるだけしたくなかったですが……」
『私はっ大丈夫ですから…ッ!アルケイン様が…傷つかなくても!』
「でも、このままじゃ君は危ない。この救護テントじゃやれることが限られてる。今から城に戻るには時間がかかりすぎる。回復の得意な魔導師もいない。」
『でも…っ「名前」』
『……』
「僕はね…君が大切なんだ」
『ッ…!』
「できれば…傷ついてもほしくない。でも、君は戦場に立ち続けるんだろう?僕にそれを止めることはできない。」
『でも…私も…アルケイン様に……傷ついてほしくありません。ましてや、私の為になんか…!』
「僕は!…僕は少しでも長く君とともに在りたい。もっと…君とともに戦場を歩いていたい…ダメかい…?」
『……っ』
「…いい子だ」
僕は首のスカーフを取り、懐から短剣を取り出す。
首筋に短剣を当て、僕は、赤い線を引いた。
「さぁ……名前」
彼女は一瞬躊躇ったが、僕の首筋へと顔を近づけた。
『んっ……』
「はぁ……」
彼女の柔らかな唇が傷口へとあたり、息がかかる。
流れ出す血を、舌で必死に舐めとっていた。
『っ…』
「っと!名前……?」
一通り舐め終ったあと名前は僕へそのまま倒れてきた。
余程疲れていたんだろう、眠っている。
僕は名前の淡い紫色の髪の毛に手を掛け、撫でる。
「…名前…僕は永遠を歩むものだ…」
そう、僕は永遠を歩むもの。
でも君はいつか朽ちる。
だから、
共に歩む
不死な僕の我儘。
少しでも、長く、永く……
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