オルガ大陸はヤムル平原。大陸で最も広大な土地。そこに生い茂るのは緑の芝。
しかし、その上には緑ではない何か……赤い紅い血が乗せられていた。
ここは、そう、戦場。
きっと、戦場でなければ、きれいな緑色の芝の平原なのだろう。
そんな平原にたたずむのは一人の女性。
手には弓を携え、遠くを見据える。
手の持つ弓を構え、弦を弾くとソレはギリリと音を立ててしなる。放たれた矢は風を切り飛んでゆく。
「グワぁぁぁあっ!!」
また一人、兵士が倒れていく。
また芝が、血に染まっていく。
「名前」
声がし、彼女は振り返る。
『……アルケイン様』
現れたのは此処の指揮を任せれており、
そして、
彼女、名前が仕える将軍アルケイン。
「お疲れ様。疲れてないかい?」
『この程度なんてことありません。アルケイン様直々に戦場に赴いていただき、ありがとうございます』
「今ここを任されているのは僕だからね」
『フフ、でもここはしばらく決着つかないので勝利の美酒はお預けですね?』
「そこがきついところなんですよ」
『今日一杯やりますか?』
「名前となら、いつでも」
「アルケイン」
『あ、ヌーゴ様』
音もなく二人のもとへと現れたのは同じく将軍、ヌーゴだった。
「名前。見ていたがもっと腕を振りぬけ間抜け。腕が抜けるほどだ」
『ご指導ありがとうございます』
「で、何か用事でも?」
「カイゼル様がお呼びだ。ここは今から拙者の担当だ」
「じゃあ、名前。行こうか」
「は?なぜだ?名前が行く必要はないだろ」
「名前は僕の直属軍だ。僕と一緒に来るのは当然でしょう?」
「……」
『ヌーゴ様。人手不足でしたらお呼びください。いつでも駆けつけさせていただきます』
「そうか。じゃあ呼ぼう。たぶんな」
『では、失礼します』
そういって名前はヌーゴに頭を下げると、先をゆくアルケインの後ろをついていった。
「名前」
『なんですか? アルケイン様』
「陛下に会う前にちょっと寄り道しませんか?」
『え?』
「行きましょう」
『あ』
アルケインに手を引かれる名前。
「フフ、顔が真っ赤ですよ?」
『っ!』
アルケインに手を引かれ、ついたところは平原の近くにある高台。
平原が一望できる場所だ。
『わぁ…』
時は夕刻。
ちょうど、地平線に夕日が沈む情景だった。
「これを名前にみせたくてね」
『うれしいです! アルケイン様!』
「それはよかった」
『でも、アルケイン様、あまり太陽や日光は好まないのでは?』
「そうだね。光は嫌いだけど、この情景は好きだよ。オレンジ色の光が地に堕ちていく……儚く脆い、この世の理……」
『素敵ですね』
「えぇ」
『私、ここにアルケイン様とこれて光栄です。ありがとうございました』
「いいえ、礼には及びません。僕が名前に見せたくて連れてきただけですから」
『本当は、もっと居たいのですが……』
「?」
『さすがにもうそろそろ城へ戻らねば、カイゼル様が怒り出すかと』
「あ! すっかりわすれていました! さっそく戻りましょう」
『はい』
「名前」
『なんでしょう?』
「また、来ましょう」
『はい! もちろんです!!』
血の広がる草原も、
もっと赤くなる夕暮れに、
あなたと見るなら、
目を開いて、
見てもいいと思えた。
紅く染まる
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