目の前のベッドに横たわる彼女は、不死者の僕のように冷たく青白かった。
いつもなら血色のいい桃色の頬も、今はネクロスに降り積もる雪以上に白かった。
いつもなら水分を含み潤っている唇も、今はゴジ砂漠のように乾ききって、青紫色だった。
いつか、こんな日が来ることはもう、わかっていた。
僕も、そして彼女すらも覚悟ができていた。
それでも、余りにも急じゃないか。
僕はまだ君とともに世界の一部として生きていたかった。
君と共に美味しいワインを飲みたかったし、君と共に宝石のような葡萄を育てたかったし、君と共にまだまだやりたいことがあった。
君ともっと話したいことだってあったんだ。
僕はもう力の入らない彼女の手を取った。
細くしなやかなその指に、僕は胸元から取り出したシルバーリングをはめた。
「明日、渡す予定だったんですけどね。予定変更です」
彼女の薬指で、シルバーリングが光った。
気づけば、僕の頬を涙が伝っていた。
「滑稽ですね。別れは数え切れないくらい経験しているはずなのに」
溢れる涙は、まるで決壊したダムのように止まることを忘れていた。
「僕には夢があったんです。それは儚く小さな夢かもしれませんが、僕が常常叶えたいなと思っていた夢なんです」
君と幸せになりたかった
もう、その夢は叶わない。
「……名前」
僕はそっと、リングを撫でて、
僕はそっと、もう言葉を紡ぐことのないその唇にくちづけを落とした。
Title by 「たとえば僕が」
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