長い時間を生きていると、大体のことを知ってしまう。

それは物事や事象、感情や物の名や、痛みの種類でさえも。



だけれど僕は今、感じたことのない痛みに見舞われている。


『アルケイン様?お顔の色が優れないようですが……』


彼女はいつも血色の悪い僕の体調の悪さをすぐに見抜く。それはきっと彼女が衛生兵であることも起因しているのだと推測する。といっても今までほかの衛生兵に体調の悪さを見抜かれたことはない。


『体調が優れないのでしたら救護テントとの方で少しお休みになられたほうがいいのでは…?』

「いえ、大丈夫ですよ。少し考え事をしていただけですから」

『なら、よいのですが……』


嗚呼、この痛みは初めてだ。

直接的な痛みでも物理的な痛みでもない、これは心の痛み。


彼女の名前の顔を見ると、チクリと痛みが走る。

彼女が笑っていると痛みは鋭い痛みになって、悲しんでいると鈍痛が心全体に広がっていく感覚。

これは、アレかもしれない。

僕の経験がはじき出した結果。


「恋、ですかねぇ……」

『え?』

「いえ、なんでもないんです……ククク、僕もまだまだ若いなぁ」


自分で出した答えに嘲笑が出る。


「さて、ワイン探しに戦場に出ますよ」

『お気を付けて、将軍』

「僕は不死だよ。必ず帰ってきます」

『そうですね』

「あ、でも、刺さった矢を抜くのは手伝ってくださいね?」

『存じ上げております、将軍』

「君も頑張ってね?」

『はい』


彼女の笑顔に、新たな痛みが走った気がした。




知らない痛みを欲した




僕はまだ欲しがりなようだ。





Title by 「たとえば僕が」


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