「帰んのか?」
『あ、阿含。起きたの?』
夜を共にし、少しの睡眠をとった私は、早々に帰り支度を済ませその場を立ち去ろうとした。
傍から見れば綺麗な関係とは言い難いだろう。けれど、私もきっと阿含もこの関係をやめようとはしなかった。
「お前はいつもそうだな」
『そう、って?』
「普通の女なら逆に『待って、帰らないで』とか言うのによ」
『あら、ごめんなさいね?普通の女じゃなくて』
「お前が普通の女の器じゃねぇことくらいもう知ってるっつーの」
『フフフ、それもそうね』
「で、お前がいつも早く帰る理由ってのはなんだ?他に男でもいるのか?」
『私は阿含と違って遊ばない主義よ』
「じゃあ俺のことが本気だとでも言うのか?あ?」
『さあ?』
「テメェ……」
私が余りにもはぐらかすものだから米神の血管が浮き出てき始めた彼。
『んー……なんて言えばいいのか、私自身もわかってないのよ。言葉にするのが難しいってやつよ』
「はっきりしろ。メンドクセェ」
『あのね……聞きたいって言ったのはそっちなのに、何よその態度』
「あ゛?」
『はぁ………』
毎度のことだけれど、阿含の態度には疲れる。こんなのが弟の雲水君が不憫でならない。
彼は生まれ持っての天才だ。だからこそ、他人からは生まれながらにしてもてはやされてきた人間なのだ。
『あ……』
そう。これがきっと私が彼とこの関係を続けている理由。
『きっと私は阿含に愛をあげに来てるんだと思う』
「は?」
愛を売る仕事
好きとか、そう言った恋愛感情とは違う。
彼は一瞬呆れた顔をしたがすぐに笑った。
その顔はいつもの笑みではなく、本当の笑みだったと思う。
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