治安がいいとはお世辞にも言えないこの島で生まれ育った私。襲われることなんていうのは日常茶飯事で、自分の身は自分で守ってきた。

助けられたことなんか生まれてこの方一度もなくて、だから、嬉しかったんだ。



『キラーさんは、どこから来たんですか?』

「南の海だ」

『うわぁ!南の海かぁ!どんなところなんですか??』

「こことあまりかわらない。夏が暑く、冬が無いくらいだ」

『雪、降らないんですか?』

「ああ、グランドラインに入って初めてみた」

『へぇ……』



キラーさんは海賊で、たまたまこの島に立ち寄っただけで、たまたま私が襲われたところをこれまた、たまたま助けてくれただけの縁。

それでも、私のはかけがえのないものとなっていた。



この島のログは一週間。この島について初日で私が助けられ、今日でもう5日目。

キラーさんはあの日から私に会いに来てくれる。とても、嬉しかった。

他愛のない話をしたり、一緒に食事をしたり、買い物をしたり、特別なことは何もしていないけど、とても充実していた。



楽しい時間と言うのは、本当に過ぎるのが早くて、明日船の出航だという。



「泊まっていってもいいか?」

『もちろんです、キラーさん』



言葉はなかった。でもなんとなく、キラーさんは私を好いてくれているのだと感じることができたし、私自身もキラーさんの事を好いていた。


その日二人で同じベッドで眠った。キラーさんに抱きしめられながら寝るのは緊張したけれど、とても安心できて、直ぐに眠ってしまった。









朝の日差しが眩しくて目を覚ますと、そこにキラーさんの姿はなかった。


それどころか家の中にキラーさんはいなかった。


あったのはテーブルの上の置き手紙だけ。



「黙って出ていくことを許して欲しい。お前と面と向かって別れることができそうになかった。何かの弾みでお前を攫ってしまいそうだった。すまない、俺のわがままだ。この一週間、本当に楽しかった。礼を言う、ありがとう。お前には幸せになって欲しい。俺は海賊だ。俺のことは忘れて幸せになってくれ。お前の幸せを願っている。名前、愛してる」

『……キラーさん……っ!』



私はその置き手紙を手に、海岸へと走った。


海岸へと着くと、見えたのは出航した一隻の船。紛れもない、キラーさんの乗っているキッド海賊団の船だった。


……間に合わなかった。


せめて、最後に、私も………



塩辛い波風が、潤んだ瞳に滲みた。




波風ペーソス




(私も愛しています)
(だから)
(また、会いましょう)



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