たまにふと、思う時がある。

それは私にとってとても重要で、気になっていて、それでいて……怖くて、聞けないこと。



私たちは日常で生と死を身近に感じすぎているから。


でも、あの人は………



『はぁ………』



吐き出された溜息は、吐き出せない言葉の代わりで。それでも代わりになんてなれないから、また溜息を吐く。



「…どうしたんです?こんな夜中に星空の下で溜息なんて」
『!!』
「吃驚させてしまったかい?」
『…アルケイン様』



いつの間にか背後に立っていたアルケイン様。



『…お休みになられないのですか?明日も早いですよ?』
「それは君にも言えることだよ、名前」
『私は……心配には及びません』
「そうか」
『………』



いつもは心地よいはずの沈黙も、このときは痛かった。それはきっと私をとらえている鋭い視線のせいだろう。



『……アルケイン様、私…何かしました?』
「いえ、ただ」
『ただ?』
「ため息の訳は話してもらえないのかと」
『………』



話せるものなら話したい。

でもきっとこれは貴方を傷つけてしまうから…



「僕に話せないこと?」



声色穏やかに私に話しかけてきた。



『そのきっと…アルケイン様の気分を、損ねてしまいます…』
「いいよ。話してごらん?」
『アルケイン様………』



私は意を決して話すことにした。




『アルケイン様は今、幸せですか?』
「……幸せ、ですか」
『はい』
「そうですねぇ…幸せというものの定義が曖昧で」
『………』
「ワインを飲んでいるときは確かに幸せかもしれませんね」
『そうですよね…ワインはアルケイン様と同じだから…』
「名前?」
『私とアルケイン様は違うから…アルケイン様の気持ちを私は知ることができない。その断片ですら掠めるのが精いっぱいで……でもたまにすごく悲しそうな顔をアルケイン様はするから……』
「!」
『私はいずれ死にます。でもアルケイン様は死なない。死ねば何もかもを失ってしまう。けど死ねなければそれはずっと残る…』
「そうですね」
『記憶や感情……きっとどれもアルケイン様について回っている。そしてそれをどれも我慢して生きている』
「…でも、僕が経験した辛い記憶よりもつらい経験をしている人なんてこの世の中には沢山います。そうおもえば、辛くないですよ」
『それでも、涙を流したのでしょう?』
「!」
『私は、我儘だから…アルケイン様が、一人で涙を流すという行為が辛いです』
「……もう、慣れましたよ」
『慣れる?悲しみに?苦しみに?そんな負の感情に慣れたっていうんですか?』
「…不死者というのはそういうものです」
『……やっぱり私は我儘だ』
「名前?」
『私はっ!貴方の幸せを、願ってます…できれば…私がその幸せを作れれば…なんて大それたことを思ってしまうんです…。負の感情に慣れるほどの年月を重ねた貴方に対して失礼ですよね』
「…いいえ、名前。そんなことはありません」
『え?』
「貴女の存在は、今の僕をちゃーんと幸せにしてくれています。一緒にいるだけでこんなにも心が満たされる。慣れてしまった負の感情ですら薄めてしまうほどに」
『………』
「ただ…そうですね。名前が悲しいと僕も悲しい。だから、貴女が朽ちてしまうその時まで……僕の前では笑っていてほしい。それが僕の幸せだ」
『アル…ケイン様……』
「さぁ、体が冷えてしまうよ?中に入ろう」
『…はい』




幸せについて考えてみたかった





貴方が思う以上に、私は貴方を想っています。

もし、本当に、私の笑顔が、貴方を幸せにしているのであれば、私は微笑み続けましょう。

私が朽ちるその時まで。

貴方のすぐそばで。


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