私はまだ子供だ。
10年も暮らしたこの街も、親の転勤でいとも簡単に去らなければならなくなる。
一人暮らしという選択だってあった。もう子供じゃないと言い張ったものの、結局親に押し切られ、引っ越すことになった。
そんな私には、仲のいい幼馴染がいる。
沖田総司。
同い年で、同じ高校に通っている。所謂イケメンで、モテるのに彼女はいないとのこと。
総司といるのはとても心地が良かった。総司といるのが当たり前だった。でもその当たり前が、当たり前じゃなくなろうとしていた。
『やだなぁ……』
「また?さっきからそればっかり」
『だって……総司は嫌じゃないの?』
「嫌じゃないわけじゃないけど、どうにかできることでもないし?」
『それは、そうなんだけど……』
私は今総司の家に来ていた。
引越しが決まってから、前にも増して総司と一緒にいるようにしている気がする。でも総司はそれを別段気にすることもなく、私の相手をしてくれた。
「んー、何かないかな……」
『何が?』
「ちょっとね…………あ、アレがあった。名前、出かける準備して。寒いだろうから沢山着込んでね」
『え?』
総司に言われるがまま私はコートを着込んだ。総司が手にしていたのは何かが入っている紙袋とバケツ。
「んじゃあ、行こうか」
『う、うん』
時間帯にして18時。夕方ではあるものの、冬であるこの時期もうほとんど真っ暗。
総司の隣を歩き、向かった先は近くの河原だった。
「はい」
『これ……線香花火?』
「うん。去年の夏のやつ。余ってたの思い出して」
『でも、どうしていきなり花火?』
「とりあえずやろうよ」
『うん』
火をつけるとパチパチと弾け、小さな花を咲かせる花火。1分も立たないうちに、ポトンと落ちてしまう。
「ねぇ、競争とかやらなかった?」
『やったやった!落ちなかった人が勝ちのやつでしょ?』
「そうそう。まだ、数あるしやらない?」
『やる!』
せーの、といって二人同時に火をつける。
小さな花が二つ同時に咲き誇った。
『あっ!』
「はは!僕の勝ちだね」
『負けたぁ…』
私の花火が先に地面へと落ちた。私の負け。
『いっつも勝負事は総司に負けるんだよねー』
「そうだったね」
『で、総司。なんで花火なんかやろうとおもったの?』
「…楽しかった?」
『え?』
「花火」
『楽しかったよ、すっごく!』
「そっか……僕もね、名前と離れたくないよ」
『そう、じ?』
「でも、親がいて僕らはこうして出逢えて育ってこれたんだ。そうでしょ?」
『うん…』
「だからせめて、何か思い出になるようなことしようと思って」
『それで、花火?』
「うん。冬に花火なんてしたことないでしょ?」
『確かに、忘れられないや!』
「僕も、忘れない」
『ありがとね、総司』
「どういたしまして」
季節外れの線香花火
((でもいつか、僕が君を迎えに行くから))
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