ベクトル方程式 | ナノ




校長が部屋を出て、私はそのままそこで作業を開始させた。

持ってきておいたパソコンを並べ、某りんご会社の携帯端末のデザリング機能を使ってパソコンのネット環境を整える。一台のパソコンですぐさま泥門のネットワークへとアクセス。さきほど校長から聞いたパスワードを打ち込み入っていく。


『さてと、』


とりあえず私は今年度の転校生を調べることにした。この間の事件同様、転校生が関わってる場合がないとは言い切れない。それどころか一番有力なのが転校生だ。妖兄及びアメフト部おかしくなってのはここ1ヶ月ともなれば転校生の可能性を疑わざるを得ない。


『……いない、か』


しかしデータベースを調べるも、今年度の転校生および編入生は見受けられない。


『はぁ、厄介だなぁ』


こうなってくるとデータベースだけで検討をつけるのは骨が折れる。凝り固まった肩を回せばパキリと音が鳴る。私はケータイを手にとった。


『先手とれたと思えばそれでいいか』


メール作成画面を呼び出し、宛先を妖兄にする。内容はもちろん夏合宿先についてだ。


『送信っと』


ついでに跡部さんにも日程についてのメールを送る。そうすればすぐに返信が帰ってきた。開催は8月下旬の1週間とのこと。


『ふぅ……』


エアコンから吹いてくる風が肌に当たる。肌が冷たい。じわりと滲んでいた汗が気化していく感覚がリアルだ。

それにしても、だ。


『まーた、ファンタジーだったりしてね』


思い出すのは1ヶ月以上前のあの事件。もう、あの事件をあの女を覚えているのは合宿に参加したメンバーだけだ。といっても、あの死神を名乗る男の存在を知るのは私のみだが。

それにしたって疑問が残る。妖兄だって覚えているはずなのだ、あの女の存在を。あの事件の存在を。なのに、似たようなことに妖兄まで巻き込まれている。

私は、あの事件のことを思い出すことにした。あの女が口走っていたことを整理していく。


あの女は元の世界で人を殺めてこっちの世界に飛ばされた。死神の手によって。その際、生活に不便を来さないようにと願いを3つまで叶えた。あの女はその願いに逆ハー補正と容姿とお金を望んだ。

きっとあの神のことだから、もうこの世界に変な奴を送り込むとは考えにくいけれど。もし、今回のこの事件が同様にトリップしてきた人によるものだったとしたら。


『はぁ……』


確か、この世界は元々あった2つの世界が混合したパラレルワールドっていう話だった気がする。そしてアイツはテニス部ばかりを狙っていた。つまりはテニスを題材にした漫画もしくはアニメ狙いでこの世界に来た。

ならば、今回はアメフトを題材にした漫画もしくはアニメを標的に?

合点がいくのがまた私をイラつかせる。泥門は昨年奇跡的な優勝を遂げた。それはまさに漫画で言う主人公補正並みの。

だとしても、だ。


『転校生がいないのに、どうやって……もとから泥門に通っていて期を伺っていたとでも?』


考えを膨らませる。けれどこんなの机上の空論に過ぎない。

ぱたんと、パソコンを閉じた。


『明日、泥門行こうかな』


驚かれはされても嫌な顔はされないはずだ。私は有言実行するタイプだ。



机上の空論


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