ベクトル方程式 | ナノ



泥門のことが気にならないと言ったら嘘になる。でも、私が気にしたところでどうにかなる問題ではないこともまた確かで。妖兄が何も考えていないとは信じがたいし、私が口出しをするようなことではないこともこれまた確かなのを私は知っている。


「では最後に生徒会長である跡部景吾より挨拶です」


去年は妖兄の夢のためと使えるものを全て使って手伝いをした。でもそれは妖兄がいたからであって、もう引退をした泥門デビルバッツの手伝いをする気などない。まあ、多少のことはするかもしれないけれど。え?フラグ?


「おい!お前ら!高校生活の夏休み……各々しっかり楽しみやがれ!以上だ!」
「「「わぁぁぁああああ」」」


私自身割とアメフトが好きっていうのもある。個人的に情報収集はするのだろう。どうせ、夏休みも暇なんだろうし。


「おい、終業式終わったぞ」
『あ、若』


気がつけばもう人気のない体育館。若はいつもと変わらぬ表情で私の顔を射抜いていた。


『ごめん、ありがと』
「教室もどるぞ」


教室に戻れば担任から夏休みの注意などを受ける。そしてプリントなどを配布されて解散。しかし夏休み前ということもあってか生徒の大半は教室に残り、夏休みどうする?なんて会話を展開させていた。


「お前は夏休みどうするんだ」


几帳面に配布されたプリントをファイルに仕舞いながら私に問うてくる若。


『特になにも考えてないけど……まあ、小遣い稼ぎかなぁ』
「お前……」
『ははっ、そんな心配しなくていいよ。危険なことはしない予定だから。ちょちょっと株の情報の売り買いする程度』


私が親指と人差し指で少しと表せばあからさまにため息を吐き出す若。


『若は?聞くまでもないだろうけど』
「まぁな。夏休み中は避暑地にある跡部さんの別荘での合宿が主だろうな」
『なるほどねー』


全国区のレベルとなれば夏の合宿は必須。夏休みとは名ばかりの練習地獄と化すのだろう。

実際に去年の泥門デビルバッツは夏休みの約40日間に渡るウルトラアメリカ横断トレーニングをこなした。きっと今年も、去年ほどとはいかないだろうが厳しいトレーニングをするのだろう。

それはきっと、テニス全国区である此処氷帝にも言えることなのだろうが。


と、そこまで思考を巡らせたところで私は一つひらめいた。


『若、跡部さんの所行こう』
「は?」


善は急げ。思い立ったが吉日。

私は若の手首を掴んで彼がいると思われる生徒会室へと向かった。


コンコンコンとノックを三回。中から返事が聞こえる。


『失礼します』
「……失礼します」
「……未久に日吉じゃねぇか。何か用か?アーン?」


高級であろう革張りの椅子に腰掛ける跡部さん。


『夏休み中に避暑地にある別荘を1つ借りたいんですけど。できればグラウンドとか運動施設がしっかりしてるとこ』
「別に構わねえが、何に使うんだ」
『私が、というよりは妖兄に』
「あいつが?」
『知ってるとは思うけど、妖兄は去年優勝したアメフト部の元部長だからね。夏休み中の練習場所の提供くらいはしてあげたいなって』
「なるほどな。わかった。お前には別荘1つ貸すくらいじゃ足りねえくらいの恩があるしな」
『別に私は恩の売り買いをしたいわけじゃないんだけどね』


そう言えば跡部さんもお前らしいなと笑った。


「それでお前はアイツのとこでマネージャーの仕事でもするのか?」
『いや、そこまでするつもりはないけど。見に行くくらいはするだろうけど』


すると下を向いて肩を震わせ始める跡部さん。

訳が分からず隣にいる若に視線を投げれば、嫌な予感がすると言わんばかりに顔をしかめていた。


「おもしれぇじゃねーの」
「『は?』」
「氷帝テニス部と泥門アメフト部の合宿を同じ日程でやろうじゃねぇか!」
「……」
『……』



夏の奪い合い




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