この状況は、私から見てもそして傍から見ても奇妙だと思う。
都内にある小洒落たケーキ屋さん。イートインも出来て休日ともなれば沢山の人で賑わう。小洒落たと言う程だから店内は居心地がよく綺麗。そしてなんといってもケーキが美味しい。
と、ここまで言って大体わかってもらえるはずだけれど、お客の大概は女性だ。OLだったり私のようなJKだったり。親子連れや、いたとしてカップル。甘い雰囲気と甘い空間が広がる店内。
その中でも、異質なのだ。
『えーと、3種のベリータルトを1つに大栗のモンブランを1つ。あと抹茶のシフォンケーキを1つにコーヒーを3つ』
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員さんもなんとか笑顔を作っているように見えたし、なんだか申し訳ない気持ちになるけれど許して欲しい。というか、私は悪くないはずだ。悪いのはコイツらが甘党というところだろう。
『その顔、どうにかできないの?仁にルイ』
「生まれつきだ、黙っとけ」
「カッ!なんで俺が……」
見慣れた白ランとは違い私服に身を包んだ不良と呼ばれる二人は、この甘い空間に溶け込むことなく違和感だけを発し続けていた。
不良界隈では有名な二人。阿久津仁と葉柱ルイ。強面のその面構えとは裏腹に甘党な二人を引き連れて私はこうしてケーキ屋さんに足を運んでいるわけだ。
かくいう私もそれなりに甘いものが好きで、お気に入りのカフェは都内にいくつも存在する。甘いケーキを食べながらお店ご自慢の美味しいブラックコーヒーを飲むのが大好きだったりする。
コーヒーショップなら妖兄と来れるのだがケーキとなると話は別で。甘臭ェとかいって顔をこれでもかと顰めるので、ケーキを食べるときは妖兄を引き連れない。
代わりと言ってはなんだが、最近はよくこの二人とケーキを食べる。
二人一緒というのは、まあ、なかなかないのだけれど。
「お待たせいたしました。3種のベリーのタルトと大栗のモンブラン、抹茶のシフォンケーキになります。コーヒーはこちらに。では、ごゆっくり」
木で出来た丸テーブルに、レースのあしらわれたテーブルクロスの上に置かれる色鮮やかなケーキ。
『おいしそ』
私はフォークでタルトをつついた。生クリームの白の上にはつやつやと輝く3種のベリーたち。そしてちょこんと乗せられた緑色のミントの色彩のバランスが女心をくすぐる。
目の前の男たちもこれまた美味しそうにケーキをほおばり始めた。
急ぐわけでもない。私は話を始めた。
『ルイは練習出てるの?』
「あぁ、一応な」
都立賊徒学園でアメフトをやっているルイ。しかし賊学も泥門と同じように高3の夏で部活が終わりということもあってもう引退済みだ。
といっても不良の溜まり場でトップを務めるルイだからこそ、まだまだやるべきことはたくさんあるのだろう。
『力は付け始めてると思うけど、ルイがいないのはキツいよね。はっきり言って』
「カッ!はっきり言いすぎだ、テメェはよ」
『なに?濁して欲しかった?』
「やめろ、気持ちわりぃ」
『でしょう?でも、まあ、大学に行けばそれなりのことができると思うよ。賊徒大学行くんでしょ?』
「あぁ」
ルイは綺麗な緑色のふわふわシフォンケーキを口の中へと放り込んだ。
「にしても、今年の泥門はなんだありゃ」
『?』
「カッ!知らねえのか?」
急にそんな話をされて私も驚いている。
昨年は妖兄の夢を叶えてやりたい、その一心で泥門を優勝させるためにいろいろと動いたが今年はそうする予定がなかったから。アメフトの大会の動向こそ気にするが泥門がどうこうまでは気にしていなかった。
しかしこのルイの口ぶりだと、今年の泥門はなにやら雲行きが怪しくないらしい。
「柱谷との練習試合、35‐15で負けたって話で持ち切りだぜ」
『はぁ!?』
ガシャンと、机の上の真っ白い陶器が震えた。
『鬼平の抜けた柱谷にそんな糞みたいな試合を?泥門が??』
「試合内容まで詳しくは知らねえが、散々だったみてぇだな」
『な、なんだってそんな……』
「セナの調子でも悪かったか、新しく入ったメンバーがうまく機能しなかったか」
『……』
「泥門って言やぁ、去年優勝したんだろーが。そんな練習試合ごときで本気だせねぇとかそんなんじゃねぇのか?」
仁が半分興味なさそうながらも話に混ざってくる。
『去年の優勝だって、言い方は悪いけど運が良かったとしか言い様がないからね。妖兄の作戦と選手のポテンシャルがうまく噛み合った結果みたいなモンだったから……』
何百人もいる部員から選ばれた精鋭中の精鋭とも言える帝黒に勝てたのは、実力というよりは運だと私は考えている。
才能なんてあるようなチームではないのだ。本当に才能があったといえたのは5人程度。頭脳の面で妖兄。走りでセナ。キャッチという一点だけでモン太。パワーで栗田さん。キック力でムサシさん。
あとは素人に毛が生えた程度。それでも勝てたのはもう根性論とか精神論のレベルでしかない。
そんな中、今年はその才能ある選手のうちの3人が抜けたのだ。余裕なんてあるわけがない。ただでさえ去年からアメフト始めましたな奴らの集まりだ。彼らに足りないのは経験。練習試合一つ取っても手加減なんてできるような立場ではない。
「まぁ、あの妖一が手加減させるとも思えねえしな……」
「つっても、ヒル魔の作戦の一つと考えなきゃあまりにも不自然とも言える」
妖兄のことをよく知っているとも言える二人が話し始める。
『でも、まあ、なにか理由があったって考えるしかないでしょ』
サクっと、タルト生地にまた一つ、ヒビが入った。
モンブランとカメレオン