時刻は10時40分。両チームともアップを終え、最終ミーティングをベンチで行っている。西部と神龍寺は観客席でその様子を眺めている。
せっせとドリンクやタオルを運ぶ椿屋栞子。それを手伝うセナや雷門以下選手たち。
私は一応泥門ベンチにいる。
「勝てるわけねぇよ、こんな状態で王城相手に。柱谷にさえ負けたってのに」
ブツブツと文句を垂れるのはもちろん一年生。
まあ私も勝てるだなんて1ミリも思っていない。
『まぁ一年生は改めて王城の強さを感じる試合にすればいいと思うよ』
「適当なこと言ってない?妹さん」
『まさか』
適当どころか的確なことを言っている自信がある。
さきほどアップを終え、なんて言ったが果たして今もなお椿屋栞子にデレデレしている彼らがまともなアップをしたのか、それは些か謎である。
そして始まる試合。
結果から言おう。惨敗だ。
スコアは0-35と圧倒的。鉄壁のディフェンス王城相手に手も足も出なかったというある意味でわかりやすい結果。一年生の表情は負けて当たり前といった顔だ。しかしほかのメンバーは違う。驚愕といった表情。勝てないにしてもそれなりの試合はできると踏んでいたのだろう。しかし結果は先程も述べた通りの悲惨なもの。
「ま、けた……」
「おかしいぜ、だってよ、こんな、」
絶望に打ちひしがれるメンバーをよそに、私は王城を見やった。王城は勝った喜びよりも泥門の不抜けた姿に呆れているといった様子か。
「進、さん……」
セナの視線の先には今でもなお、彼の目標とも言える進清十郎の姿。その視線に気がついたのか進さんはセナを見やった。
「……泥門の不調は聞いていた」
「!」
「しかし、予想をはるかに上回った。今のお前とは戦う価値がない」
「ッ!?」
そう言って進さんは控え室へと姿を消した。
「戦術は悪くなかった。だが、糞チビ共の動きが悪かった……」
『なんでかな?』
「……未久」
試合には参加せずとも自分の作り上げたチームが無残に負けた妖兄はその原因を考え込んでいた。
『なんでだと思う?妖兄は』
「……」
『調子が悪い、で済む話ではないことくらいは理解してるよね?』
誰にだって調子の悪い時はある。それを理由にするなとは言わないが、今の目の前にある現実がその一言で片付けられるはずはない。
『思い出してよ、妖兄。なんでこんな結果になったか。結果には必ず原因がある』
「俺は……」
「妖一っ!」
眉間に皺を作り出し考え込む妖兄を後ろから抱き込んだのは椿屋栞子だった。その声色は慰めの色を滲ませているようだった。
「みんなを責めないであげてね?確かにいい結果じゃなかったけど、みんなの頑張りは必ず次につながるから!ね?」
「栞子……」
『頑張り?どこにあるんです?そんなもの』
「未久……ちゃん……」
『頑張りの意味、履き違えてません?ま、どうでもいいけど』
私は目を細め、彼女を見つめた。
『あんなのでよく頑張ったなんて言えるなら、王城の頑張りにはお金出せますよ』
「未久ちゃんはみんなが頑張ってなかったっていうの?みんなのこと毎日見てるわけじゃないのに勝手なこと言わないで!」
『毎日の積み重ねがあったら!あんな結果になるわけないでしょうが!』
「っ!?」
力を入れた奥歯がギリリと音を立てたのを感じた。
抱きしめるどころか握りつぶしてやりたい