ベクトル方程式 | ナノ




合宿三日目。この日朝一で鳴った私のスマホは妖兄からの連絡だった。


『……もしもし』
「今日練習試合を組む。見に来とけ」
『あー……うん』


練習試合を組んでいるようだとは聞いていたが、まさか今日だとは思っていなかった。あくまでも練習試合だというのか。

そしてまた直ぐに一通のメール。


『へぇ……』


メールの本文を眺め、面白いことになりそうだと予見する。

私はジャージに着替え、一足先にグラウンドへと足を運んだ。


公式な試合もできるであろう設備だ。もちろん観客席も完備。私は観客席の至るところにカメラを設置した。グラウンドで行われる事全て、一挙手一投足何もかもを逃すことのないように。

全てのカメラを設置し終わったとき、ポケットにいておいたスマホが震えた。


『もしもし?どうしたんですか跡部さ、』
「なにしてやがる!朝食の時間だぞ!」
『あ、すみません……』


耳元で叫ばれ呆れ半分、申し訳なさ半分。きっと跡部さんのことだ、律儀に私のことを待っていたのだろう。


『今、グラウンドに来てて……先に食べていてください。連絡を怠って申し訳ないです』
「グラウンド?何かあったのか」
『今日練習試合が組まれていたみたいで、下準備を』
「……なるほどな。理由はわかった、先に食ってる」
『はい』
「だが、ちゃんと朝食は食えよ」
『……はい』


電話越しでもわかるその優しい声色に思わず口元が緩んでしまう。自分にも他人にも厳しい人だけれど、その厳しさにこそ優しさが滲み出てる。少し、妖兄と似ている。この感覚がとても心地よくて。

私は跡部さんに言われたとおり別荘に戻り朝食を頂いた。シェフの作る絶品の朝食に舌鼓をうち、私はそろそろやってくるバスを迎えることにした。


やってきたのは白い最新型のバス。そう、王城ホワイトナイツのバスだ。


『お疲れ様です、大変でしたでしょう、バス移動』
「未久ちゃん、わざわざありがとう。基本バス移動だからね、大丈夫だよ」


最初に降りてきたのは桜庭さん。前に比べたら随分と伸びた髪の毛が動くたびに揺れる。そしてその後ろから次々と屈強な王城の選手が降りてくる。


『進さん、お久しぶりです』
「うぬ」


最後に降りてきた進さんはすっかり試合モードで目をギラギラさせていた。

攻撃的という言葉だけ聞くとオフェンスなイメージがあるだろうが、実際におこなっていることは逆だったりする。攻撃はがむしゃらにすればいいというものではない。その爆発的な攻撃力を生み出すには何重にも綿密な作戦を組み立てなければならない。ディフェンスは違う。その攻撃を肉食獣が如く蹂躙する、それがディフェンスだ。今の進さんは肉食獣そのものと言えるだろう。

補正は効いているはずだけれどこういったところは進さんらしいと素直に感心してしまった。


『控え室こちらになります』


練習試合だろうが揺らがない王城の選手を目の当たりにして、私は心の中で合掌した。ほとんど仕上がっている王城相手に、今の泥門が勝てる確率なんてほとんどゼロだ。



南無阿弥陀仏


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