ベクトル方程式 | ナノ




信仰、宗教が存在するとともに神や天使、悪魔なんかの存在も信じられてきた。科学や工学が発達した今でもそれらが廃れることはない。それが何故かと問われても無神論者の私が語るのはお門違いというやつだろう。

と言っても、私は実際この目で「神」という存在を認めてしまっている。神といっても死神なのだが。

頭ごなしに否定できない事例に頭を抱えるが、今回はそれをも受け止める寛容性が必要であって更に頭を抱えているわけだが。

何が言いたいかと言うと、神も仏もいないと叫びたいということだ。

円子令司が言うにはこうだ。
悪魔と何かを取引するには契約印というものが必要で、契約した人間側に消すことのできない印が刻まれるのだという。その刻まれた契約印の場所によっては契約の力が変わってくるとのこと。

だからどうした。と言いたいところなのだが、この情報割と有益だったりする。

悪魔との契約がどういったものなのかはまだ明確ではない。しかし契約の力が弱ければ、その契約内容が何かの拍子に消えるかもしれない。

契約の力が関わってくるそれは「目立つ」ということらしい。目立つところに契約印があればあるほどその契約の力は強くなるらしい。


『目立つ、ねぇ……』


彼女を観察して早一ヶ月。そんなものを目にした記憶はない。しかも今の季節は夏。露出の多い時期だ。それでもなおそんな契約印じみたものは見たことがない。

ならば、


『契約の力が、弱い可能性がある』


断定はできないが、可能性としては賭けてもいいくらいには大きな可能性。


『なんにしろ、やっぱりこっちから行動を起こさないといけないな』


情報量は今でもかなりの量だと自負している。だが、まだ足りない。まだ。


その日の夜。私は部屋に設置したモニターで監視カメラのチェックを行っていた。映像はもちろん別館の方。

今写っているのは食事風景だ。

食事も勿論各自での用意となる。となると自然とそれはマネージャーの仕事となるわけだが、見たところ食事に問題はなさそうに思える。

そのほか、掃除も洗濯も卒なくこなしているように見えた。


『どこかに穴が……いや、まてよ』


それこそが、契約内容の一つだとしたら?



私は真夜中、別館を歩いていた。

乾燥室やキッチンを見て回り、所々をチェックする。


『……なるほどね』


キッチンのシンクには洗い終えた大量の洗い物があるが、洗い終えているだけで片付けまではされていない。残飯がほとんどないところから見て料理自体はまずくない様子。しかし調味料の置き方などがどこかおざなり。
乾燥室には大量の洗濯物が干されていた。洗濯機の使い方も問題はないようだし、色移りなどの考慮もされているみたいだが干し方がイマイチだ。間隔やシワの伸ばし方、あとはバランスが悪くて落下しているものがいくつか。


私は部屋に戻り改めて映像を見直した。盗聴器の音声とともに。

大きな独り言があるといいのだが。


「本当に、めんどくさい」

「本当なこんなことしたくないのに」

「手は荒れるし、一人だし」

「でも、そうしなきゃ……使えないって思われるわけには行かないわ」

「せっかくこうして、なんでもできるようにしたんだから」


ビンゴ。大きな独り言をゲットだ。

つまり椿屋栞子は、マネージャーとしての基礎的な能力を契約の一つで補っているということなのだ。しかしそれにしてはどこか抜けている所作の数々。これが指し示すことはひとつ。


『契約は、ゆるいものである』


所詮は悪魔、というべきなのか。手の抜き方がうまいのか、元々やる気がそんなになかったのかはわからない。でも、そのおかげで解決の糸口が見えた。

あとは、叩くだけ。

それが一番難関であるのは言うまでもないのだが。

相手は、あの妖兄だ。



where is god ?



ほら、神なんてない



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