ベクトル方程式 | ナノ




こうやって、泥門の見るも無残な姿を見るのはあの屋上以来だろうか。相変わらずの惨状に目をつぶりたくなるが、そこをぐっとこらえる。

今更こんなことを言うのもなんだが、私はなんやかんやで泥門デビルバッツというチームのことを好いていた。純粋ゆえに妖兄の想いをちゃんと受け止めて、そして夢を掴むためにプレーをしていた姿は、嫌いじゃなかった。

ステージ上のキラキラのアイドルのような、スーパースターと呼ばれる存在のような、手に届かない存在のような、そんな気さえ起こさせるように、アメフトをしている彼らは眩しかった。

その彼らが、今は微塵も眩しくない。

彼らがこの先破滅の一途を辿ろうがそれはどうでもいい。これは本音だ。

だけれど、それで彼らは本当に後悔しない?試合に負けても椿屋栞子にかっこよさをアピールできればそれでいいと、そう思ってしまう?

答えはノーだと私は思う。

きっと補正にかけられた彼らは、負けても笑顔だろう。椿屋栞子にそれなりの言葉をかけてもらってご満悦に違いない。それでも外に出ることのない感情のどこかで悲鳴を上げるに違いない。どうして!!と。

きっとそれは選手だけでないのだ。泥門デビルバッツというチームを築き上げた妖兄だって、そんな負け試合を見ていい気持ちになるはずがない。

妖兄の心に、陰りができている。

そんなの、許せるはずがないじゃない。


太陽は真上を過ぎ去り傾きをはじめる。しかし気温は本日最高をマークしたところだろう。そんな時間。

泥門デビルバッツ一行を引き連れた私は、アメフトが行える人工芝のグラウンドに向かって歩いていた。
別荘からそこまでは徒歩7分程度。そしてその間には、氷帝テニス部が練習しているテニスコートの一つが見えてくる。

この敷地内には大きく分けて二つのテニスコートが存在する。見えてくるテニスコートは通称ウエストコート。総コート数は2つ。そして室内プールをはさんだ向こう側にもう一つテニスコートが存在する。通称イーストコート。総コート数2つ。プラスでアップ用の緑色の壁が2つ設置されている。

見えてきたウエストコートからは打球音が響いてくる。よく見れば幼馴染だという三人組がコートに入っていた。


「あ、未久じゃん!おーーい!未久ーー!」


私の存在を認識したであろうジロー先輩がラケットを持った手を大きく振り、それに伴うようにして大声を張り上げた。


「おい、ジロー!俺とのサーブ練習中によくも……!跡部に言いつけんぞ!!」


ジロー先輩とサーブの練習をしていたのであろう向日先輩は怒り心頭の様子。


「跡部優しいCー!そんなことで怒んねぇC」
「クソクソ、ジロー!」
『お二人共、いいですからサーブ練やっててください。本当に跡部さんにいいつけますよ。サボってたって』
「クソクソ!未久までかよっ!」
「しょうがねぇからやるCー」


そのまま視線を横に持っていけばベンチに腰を下ろした宍戸さんがこちらをむいて手を挙げた。


「おー、未久。案内ご苦労さん」
『休憩中ですか?宍戸さん』
「まぁな。案内終わってからでいいからよドリンクの補充頼めるか?」
『任せられました。他に何か足りないものは?』
「今のとこはねぇかな。ありがとよ」
『いいえ』


さてと、私は気がついている。

刺さるほどの視線が私に向いていることを。この視線はそう、敵を見るときの視線。威嚇するときの視線だ。

イケメンである彼らと普通に話していた私に嫉妬でもしたのか、どこか余裕そうな私にムカついたのかわからないが、そんな調子で1週間大丈夫なのだろうか。なんて、敵の心配をしてみたり。


余談になるけれど、今は泥門デビルバッツよりも氷帝テニス部の方が好いているよ。

誰にも言わないけど。



好いていた



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