13時30分。予定通りの時間でバスがやってきた。
私に目の前に止まるバス。開く扉。私は運転手に軽く会釈をした。
「未久じゃねぇか」
「お、ひっさしぶりぃ」
最初に降りてきたのは戸叶庄三と黒木浩二。大きなボストンバッグを肩にかけて片方の腕をあげて私に手を振った。
その後ろに小結大吉と瀧夏彦が続く。最初に降りたこの四人はバスのしたにある荷物置きから大きな荷物を取り出す作業に入った。
次に降りてくるのは一年生だ。一応顔見知りということもあり私に軽い挨拶をすると荷物を下ろすのを手伝い始めた。
ちなみに今回の合宿で参加する3年生は妖兄だけだ。まず栗田さんは実家のお寺のお仕事があるとのこと。休むことも可能だったそうだが妖兄が「てめぇの食費だけで防具いくら買えると思ってやがる」と一蹴し今回は不参加。ムサシさんも同様、家業の手伝い。雪光さんも本格的に受験勉強を始めるとのこと。医大を目指しているのだから致し方ないだろう。
泥門デビルバッツ、総勢18名である。
「ちょっと、ちょっと、妹さん」
ちょいちょいと私を手招きするのは一年の岸谷くん。
『なに?』
私が近寄ればそっと耳打ちをしてくる。
「マネージャーやってくれないってきいたんだけど」
『しないよ。私はあくまでも合宿場所を提供したに過ぎないから』
「マジかよ……合宿になんねぇって」
絶望した顔で岸谷くんは落胆した。
『でも、この合宿が終わればまともな練習ができるよ』
「……別に妹さんを疑ってるわけじゃないけどさ、無理はすんなよ」
『うん』
“キャラクター”にかかっているであろうなんらかの補正が彼を含めたほとんどの1年生にかけられていない。これがひとえに何を表すか、それがわからないほど私は馬鹿ではない。
ゲームや漫画、アニメなどは基本的に主人公が活躍したとある一期間をピックアップされていることが多い。何を言いたいかというと、主人公だって普通に生きれば70歳ほどの寿命を持っている人間だ。しかし取り上げられるのは大きな出来事があった約1年、なんてことが多い、ということだ。
特にスポーツアニメ、漫画なんかはそれが顕著だと言えるだろう。
大会で優勝するまでの間、がほとんどだからだ。
つまり、
“泥門デビルバッツが全国優勝を果たす”
というのが主題の漫画かアニメがこの世界のもうひとつの形なのだろう。
それから察するに、全国優勝を果たした翌年の1年生が描かれている可能性はないとは言い切れないがせいぜい3割。
一人だけ1年の中で補正らしきものを受けているのは中坊明である。彼が他の1年と違う点といえば3月に行われたワールドカップユースに出場したことだろうか。
現状から見て、ワールドカップユースまでが描かれていたアニメ、漫画だということが推測できる。つまり、それまでに泥門デビルバッツと関わったチームはもれなく補正の餌食になっている、ということなのだろう。
『さて、』
ちらり、バスの扉を見やれば降りてくる女が一人。
「着いたーー!」
肩口のあたりで切り揃えられていた髪の毛は後頭部で一つに結い上げられており、流石に格好はジャージ。それでも化粧はばっちりといった出で立ちの彼女は最後の一段をひょいと飛び降りた。
「危ねぇだろーが」
「1段くらいどうってことないよ!もう、心配性だなぁ、妖一は!」
その彼女の後ろから降りてくるのが、蛭魔妖一である。
「全員いますか……?」
最後に降りてきたのはセナで。点呼を取るようにして声を上げた。
『泥門デビルバッツ御一行様、総勢18名、全員いますよ』
バスから降りてきた人の数を数えていた私はセナを見つめながら声を出した。
「未久……!ありがとう」
「ムッキャ!未久じゃねぇか!」
セナと共にいたモン太も私の存在に気がついたようで手を振ってくる。そして、
「未久ちゃんー!今日はありがとうね!!」
それに便乗するかのように彼女、椿屋栞子は満面の笑みを浮かべた。そんな満面の笑みに見とれるメンバーに、私は内心唾を吐きかけてやった。
私にはわかってる。あの笑顔の裏で何を考えているか。
『時間がもったいないので、宿泊施設の方に案内します。荷物を持ってこちらに』
部屋はだいたい二人部屋の振り分けになっている。妖兄と椿屋栞子だけが一人部屋。
言わずもがな、椿屋栞子の部屋には盗聴器とカメラが取り付けられている。
今回はこの間とは違う。
やるべきことは2つ。
1つ目、椿屋栞子を監視し彼女と契約を交わしたであろう悪魔の存在をキャッチすること。
2つ目、椿屋栞子及びその悪魔の望みを明確にすること。
異端者vs異常者