『ふぁ……』
青い空に浮かぶのは白い雲。地上からは狭く見える空も屋上へと足を伸ばすことによって多少広く見える。
夏風は質量を増大させている。
夏休みを直前に控えた此処、氷帝学園高等部もこの暑い中授業が行われている。といってもこの学校はもはや跡部財閥の息がかかった超金持ち校。前教室にクーラーが入っているのは常識となっている。
ここでどうでもいい情報を流すと、私はクーラーが嫌いだ。クーラーというよりもエアコンが嫌いで、あの中にいて目や喉が乾燥していくのが本当に嫌い。だから今住んでいる部屋にもエアコンがあっても起動することはない。実家(兄が住んでいる家)にはエアコンの設置されていない私の自室が存在する。
と、まあそんな理由で授業時間であるにもかかわらず私は校舎の屋上でサボタージュを敢行していた。
もう、優等生である必要がなくなったから。
私はコンクリートの上に寝そべり昨日買ったばかりのスマホを操作していた。
普通の部活、テニス部などの大会は5月6月などに地区予選が行われ、全国大会は夏休み中に行われる場合が多い。
しかしアメフトは違う。アメフトの大会は年に2回行われ、その2つの内秋に行われる大会が全国大会決勝へとつながる唯一の大会。つまり、アメフト部の大会はこれからの時期なのだ。
夏休み中に出される予定となっている東京都地区予選のトーナメント表をアメフト協会のパソコンにハッキングをして確認し今年の勝敗予想を立てる。
今年の泥門デビルバッツは運がいいようで西部とも王城とも反対側のブロックにいた。これならば地区予選は間違いなく通過できるだろう。
しかし、今の泥門デビルバッツにはなにやら大きな問題があるようだ。
『ふぁ……』
詳しくは私も今調査中だが、なにやら不穏な空気だ。
これが、杞憂であることを願う。
「あ、やっぱりここにいたCー」
屋上への扉が開いたのには気がついていたが、まさかそれがジロー先輩だとは思っていなかった。ジロー先輩は真夏の太陽にも負けない笑顔を浮かべて私の顔に影を作った。
『ジロー先輩?』
「滝からここじゃないかって教えてもらった」
『萩ちゃんが』
私のことをまるで母親のように知り尽くしている萩ちゃん。私がエアコン嫌いであることを知っていてなおかつ屋上にいることさえもリークしていたのだろう。
「んで、未久はどうしてそんな顔してんの?」
『そんな顔?』
「すんげぇイライラしてる時の跡部みたいな顔してるC」
こんなの。と眉間にしわを寄せるジロー先輩。彼にそんな顔は似合わないなと思った。
『少し考え事をしてただけ』
「ふーん」
興味があるのかないのかよくわからないまま私の隣に寝転がるジロー先輩。
『寝るんですか?』
「んー寝るかもしんねぇ」
『お昼ご飯は?もう1時間くらいですけど』
「そんとき起こして」
それだけ言い残すとすぐさま夢の世界へ引きずり込まれたジロー先輩。
彼の無垢な寝顔に悩みなど吹き飛ばされた気がした。
ある夏の日のこと
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ベクトル方程式連載開始です。