「あれ?未久ちゃんじゃない?ほら!見てよ妖一!」
「んあ?未久……」
現状を簡潔に説明するならば、最悪だ。
仲睦まじげに腕を組んだ妖兄と椿屋栞子。夏らしい色のフェミニンな格好は男ウケ良さそうだ。
何故こんなところにいるのか何をしているのか何がしたいのかと聞きたいことは山ほどあるがそれはこの際どうでもいい。今最優先すべきは、この二人、日吉若と財前光をどうするか、である。
「こんにちは!未久ちゃん!偶然だね!買い物中なのぉ?」
『そうなんですよ。そちらもですか?』
「そうなんだよぉ!」
名前まで呼ばれて無言で逃げるのはいただけない。軽い会話をしてなんとか逃げ果せなければならない。
「あれ?そっちのふたりはお友達?」
目ざといというか当たり前と言えば当たり前だが、私の隣にいる二人のことを聞いてきた。
「未久と同じ学校で同じクラス、幼馴染の日吉です」
「未久とは仲良うさせてもろてます。財前っす。んで?そちらさんは?」
「あ、ごめんねぇ!私は椿屋栞子!未久ちゃんのお兄さんの妖一と同じ学校に通ってて仲良くさせてもらってるの」
「そうなんすか」
「未久ちゃんの通ってる学校知らなかったけど、こんなにかっこいいお友達がいるなんていいね!」
「栞子、」
「何?妖一。ふふっ、嫉妬?」
「るせぇ」
嬉しそうに笑う一方で私のことを睨んできていたことに私以外でどれだけの人物が気づいたのか。
まるで、なんでそんなイケメンと一緒にいるのよ異端者の分際で!とも言うような目だった。いや、モブキャラがどうしてそんなにかっこいいわけ!?有り得ない!だろうか。いや、知りたくもないが。
かく言う私も、いい顔はしていないだろう。冷静に分析しているように思えるかもしれないが内心冷静どころではない。
女の子に言い寄られて照れる兄など、見たくはなかった。
結局、私も彼女も同じ穴の狢か。
「そうだ!未久ちゃんも夏休みなんでしょ?妖一のところに来たらいいよ!ね?」
「おい、栞子……」
「えーいいでしょ?」
傍から見れば彼氏の妹を取り込もうとする女といったところか。真実はその真逆なのだが。妖兄との仲の良さを見せつけて私を絶望の淵へと叩き込もう、といった算段か。
ギリッ、私の奥歯が鳴った。
「あーすんません」
「今日、三人でオールって話してたんです」
『!』
私の肩に腕を回す光。私の左手を取った若。そして二人の発言に私は内心驚きを隠せなかった。でもそれを表情に出さないように。そして私はそっと左手に力を込めた。
『せっかくのお誘いありがとうございました。でも、それはまた今度の機会に』
「未久」
『何?妖兄?』
「何考えてやがる?」
『今日の夕飯のことかな』
それじゃ、と私は妖兄たちに背を向けた。その私の両隣に若と光がぴったりとついてくる。
『人を呪わば穴二つ……』
「んなことないやろ」
「お前のやっていることは間違っていない。少なくとも、今は」
私の呟きにフォローをいれてくる二人。
人を呪わば穴二つ。人を呪い殺せば自分もいずれ呪われて墓が二つになる、という意味合いのことわざ。
私のやっていることは本当に正しいのか。結局は主観でしかない。私のエゴでしかない。
それでいいと、思っているけれどね。
『それで?今日の夕飯は?』
「なんでもえぇよ」
「未久は料理上手だしな」
『なんでもいいっていうのが一番困るって知ってる?』
人を呪わば穴二つ