紆余曲折。考え抜いたけれど、私に出来ることといえばこれしかないと、そう思った。
目の前にそびえ立つのは城。正しくは城のような学校。
私立王城高校。大学附属の中高一貫校だ。お金持ち校としても有名で、聞くところによると将来王位を継ぐ人物もこの学校に来ているらしい。どういうことだ。
まあ、それは置いておいて。私は今日、この王城にあるアメフト部、王城ホワイトナイツに情報収集を行いに来たのだ。
大きな校舎をぐるりと回り、裏にある広大なグラウンド。白く眩しいユニフォームがこれまたぶつかり合っていた。
中でも目立つのは2つの影。一つはずば抜けて長身の彼。一つは5人相手に怖気付かない彼。
桜庭春人と進清十郎だ。
と、丁度休憩に入ったようで私は桜庭春人に近づいた。
『桜庭さん』
「あれ?未久ちゃん?」
『どうも、お久しぶりです』
「はは、久しぶり。今日は堂々と偵察?」
『情報収集ではありますが、偵察ではないです。安心してください』
「信用していいのかなぁ?」
『ご自由に』
元アイドルということもあって、その笑みは様になっているように思える。
すると近づいてきたのは進さんで。
「未久か」
『お久しぶりです、進さん』
「あぁ」
『休憩はどのくらいですか?』
「10分だ」
『それだけあれば十分か』
私はカバンから写真を一枚取り出した。
『この子、ご存知ですか?』
「これって栞子ちゃん、だよね?」
「泥門の、マネージャーだろう?」
『……』
見せた写真は言わずもがな、椿屋栞子のものだ。
普通ならば、この二人が彼女を知るはずがないのだ。いや、まあ、春大会で知り合っていれば別だけれど。
『いつ、知り合いました?』
「知り合ったというか、初めて見たのは去年の春大会だよね」
「あぁ。昨年の春大会2回戦の際だ」
ほら、ありえないことが起きている。
「泥門は一昨年発足して、なのにあんなにいいマネージャーが二人もいたんだよね」
「試合結果の左右にマネージャーが関係ないかといわれれば、関係ないとも言い切れないからな」
進さんがそんなことを言うとは思わなかったが、この口ぶりだと去年いたという椿屋栞子はかなりの活躍をしたようだ。
『彼女が、昨年どんなことをしていたか聞きたいんですけど』
「未久ちゃんが一番よく知ってそうだけどね」
『客観的に見てっていうのがあるじゃないですか』
「なるほどね。主務的な仕事は栞子ちゃんじゃなかった?」
「キャスティングは彼女だった」
『ほかに、見てて思ったこととかは?』
「うーん、表にいるのが姉崎さんなら裏にいるのが栞子ちゃんって感じだったかな。でもコミュニケーションをほかのチームの選手とよくとってたのは栞子ちゃんだったかな」
「今年は逆のようだが」
『逆?』
進さんは思い出すようにゆっくりと口を開いた。
「表立って選手のサポートをしているのは、今年は椿屋だった」
「あ、そうかも」
「泥門は3年の夏で引退だと聞く。その影響もあるのかもしれんがな。そのことはお前の方が詳しいだろう」
『そうですね。あ、休憩時間終わりそうですね』
気がつけば10分が経ちそうになっていた。
『休憩時間に申し訳ないです』
「気にしなくていいよ。練習中は緊張しっぱなしだからね」
『そう言っていただけると嬉しいです。進さんもありがとうございました』
「また来るといい」
『え?』
「困ったことがあれば、お互い様だと言うだろう」
『進さん……』
進清十郎。名前の通りというべきか本当に真っ直ぐな男だ。真摯で誠実で実直。スポーツマンシップという言葉が似合う。そんな人物。
私は一礼して、その場を去った。
振り返れば練習を再開した姿が目に入った。
ぶつかり合う漢のスポーツなのに、白いユニフォームも相まって本当に騎士のように見えた。
白き城門を叩く