『赤也はまた遅刻かい?』
「たるんどるっ!」


国民の休日であるはずの日曜日も中学生は部活でそれどころではない。それは「神の子」と評されてしまった私も例外ではない。それどころか休みなんて強豪校であるこの立海大付属にはほとんどない。


「弦一郎もそんなカリカリしちゃダメだよ!赤也だって悪気があるわけじゃないんだし、ね?」
「し、しかしだな蜜香……」


私の片割れである蜜香は中学で男子テニス部のマネージャーとなった。テニスのルールだって未だに怪しいものなのによくも続けてられるなと思うのは私だけのようで。真田も柳も蜜香には甘い。


「す、すみませんっ遅れたッス!」
「赤也!たるんどるっ!」
「もう、弦一郎!」
「う、」
「蜜香センパーイ!おはようございますッス!」
「おはよ!赤也!」
『赤也、俺には挨拶はないのかい?』
「ぶ、ぶちょー!お、おはようございますっ!」


私は幸村精市を知らない。全ては蜜香の入れ知恵で私はそれに従っているだけ。一人称は俺にして柔らかさの中に厳しさを入れる、らしい。言われるがままにやっているわけだけれど文句は言われないからこんな感じなのだろう。


はっきり言えば練習はきつい。いくらまだ中学2年だとしてもそろそろ男女の差がはっきりしてくる頃だ。その証拠というべきかここ最近で真田と柳の身長はグンと伸びた。私もまだ伸びてはいるものの二人には及ばない。

ときどき考えることがある。幸村精市はどうしているのかと。蜜香は私が殺したというがもし殺したのだとしてそのあと彼はどうしたのだろうか。私と同じようにほかの世界に転生しているのだろうか。

そんなこと、考えるだけ無駄なのだけれど。


日曜日の練習は朝の8時から12時まで基本的な練習をし、13時30分まで休憩。そのあと17時まで技術的な練習をみっちりやることになっている。

私が現実世界でキツいのは自分を見てもらえないことにあるからテニスが嫌いなわけではない。やってみれば案外楽しいものだったし。

この個性的なメンバーとテニスできていること自体は幸福なことと言えた。


『仁王、大丈夫かい?』
「おー……幸村。暑いナリ。死ぬ」
『少し休憩にしようか』
「そうしてくれると助かる……」
『15分休憩にしよう!蜜香、ドリンクを頼めるかい?』
「もちろん」
「また仁王くんですか」
「やーぎゅ……暑い。なんとかしんしゃい」
「私の名前はやーぎゅではなく柳生です。そしてこの暑さはどうにもなりません」


きっとこれをあえて言葉とするのなら青春、とでも言うのだろうか。


「精市!ドリンク持ってきたよ!」
『あぁ、ありがとう』
「蜜香さんありがとうございます。重かったでしょう?」
「これくらいなんともないよ!」


たまに、蜜香が羨ましく思える。あんな風に皆に思われ笑顔でいれる蜜香が羨ましいと。


こんなことを考えてしまうなんて、私はなんて醜いんだろう。










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