『む、くろ……』
「市花……」


右手に感じる暖かさは目の前で優しげに微笑む彼のもので、私も少し握り返すとまた握り返してくれて、そして二人で笑った。


「ぶちょー!!」
『赤也、それに、皆も……』
「幸村、よかった……」
「心配したんだぞ!」


見渡せばテニス部のレギュラーが全員揃っていて、一同に涙ぐんでいた。あの仁王や真田でさえも。


『心配、かけたね』


全員の顔を見ながら部屋をよく見ればドアの近くに白蘭がいた。こちらをみて変わらぬ笑みを浮かべている。


『白蘭……』
「おはよう、市花チャン」
『そっか、白蘭が助けてくれたんだね』
「あれ、なんでわかったの?」
『なんとなく、かな』


そういえば、そっかと笑う白蘭は思った通り全く変わっていなかった。


「それでなんだけどね、市花チャン」


そう思えばと言いたげに壁に預けていた体を起こして歩み寄る白蘭。ベッドに腰掛けて口を開いた。


「骸クンの力を使って、精チャンに会わせてあげようかなって。ここにいる人たちに」
『え、』


白蘭の言葉に思考が追いつかなかった。今、彼はなんといったのだろうか。精市に会わせる?骸の力を使って??


「僕には幻を見せる力があるのです。白蘭の言う精チャンの精神を僕が有幻覚として呼び寄せる。それは幻であって現実」
『そんなことができるの?』
「可能です。長い時間は無理がありますが、10分程度なら」


骸のオッドアイがキラリと光った。


『でも、どうして急に?』
「理由は2つかな。1つは精チャンが望んだから。もう1つは……」
「そこの馬鹿な女に現実を叩きつけるため、ですかね」


そう言った骸と白蘭が見つめたのは一番奥で息を潜めていたのであろう、蜜香の姿だった。








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