本格的に夏になった。じめじめとした日本特有の夏。いたるところで蝉は大合唱をしていて、夏ならではの喧騒を作り出していた。

私は成功率五分五分の手術を受け見事成功。きついリハビリ生活を送りそして前とほとんど同じように動けるようにまで回復した。簡単に説明したけれどリハビリ自体そんなに簡単じゃなかったのは伝わっていると思う。

全国大会にはもちろん駒を進めた王者立海。といっても、関東大会決勝で青学に敗北を期した立海はもう、王者ではないのかもしれない。

トーナメントでは青学とは逆になり、あたるとすれば決勝。いや、きっと、決勝で青学と戦うことになるとのだと思う。なんの確信もないけれど、そんな気がした。

立海は着々と駒を進めていった。


そして、全国大会決勝。

立海は、青学に負けた。

準優勝。それが立海に与えられた称号だった。


決して望んでいた結果ではなかった。悔しかった。それでも、私は満足していた。最後に試合をしてくれた越前リョーマくんには、大切なものを教えてもらえたから。

でも、満足していたのは私だけだったのかもしれない。

王者立海と呼ばれ、周りから持て囃され、大きな期待をされていたテニス部。そんな周囲は準優勝という結果に納得しなかったようだ。

感じる冷たい視線。私は精神年齢で言えばもうかなりの年齢だからあまり気にしないが、今は多感な中学時代。きっとほかのメンバーにはかなり堪えていると思う。特に負けてしまったブン太とジャッカル、そして仁王は。


昼休み。私は昼食にその3人を誘った。場所は屋上庭園。私がいない間にも綺麗にされていたようで安心した。


「よう、幸村くん!」
「おー、すげぇなコレ。幸村が管理してるんだっけ?」
『まあね。と言っても入院していたあいだは任せきりだったけれど』
「ガーデニングは趣味じゃないき……」


夏休みが終わったとは言えまだまだ暑い神奈川。影を探して、そこに円を描くように腰を下ろした。

ジャッカルはお弁当。仁王とブン太は購買で買ったパンを両手に抱えていた。私はもちろんというべきか母さん手作りのお弁当だ。


『いただきます』


やはりおふくろの味というべきか、母さんの作る卵焼きは絶品だなと思った。


「……幸村、なにか、用だったんか?」


おそるおそる、といった風に口を開いたのは仁王だった。それに呼応するように私を見つめるジャッカルとブン太。


『一緒にお昼食べたかったんだけど、嫌だった?』
「いや……嫌ではないけどさ、」
『じゃあ、単刀直入に言うよ。気にしたら負けだろ』
「「「!」」」


私の言葉に目を見開き固まる3人。私はそのまま言葉を続けた。


『気にするのは当たり前だ。でも、それにあんなのに負けたって意味ないだろ。勝てなかったのは俺たちの落ち度だ。でも負けからしか学べないものだってある。俺もあの坊やに負けて、改めてテニスの楽しさに気がついたんだ』


王者、常勝、そんな言葉にガチガチに縛られていた私たちのテニス。勝てるわけがなかったんだ、そんなテニスじゃ。


『テニスは好きかい?』
「も、もちろん!」
「当たり前だ」
「あぁ」
『なら、問題なんて何一つないだろ?』


私はミニトマトを口へ運んだ。

ブン太はその大きな瞳に涙をいっぱい貯めて笑って、ジャッカルは目を伏せて笑って、仁王は大きなため息を吐きながらパックの牛乳を啜った。


「やっぱり、幸村は神の子じゃのう」
『なにそれ、嫌味?』
「褒め言葉じゃき、そんな目で見なさんな」


何時も通りの飄々とした態度になった仁王に、私は安堵した。









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