わけがわからなかった。

私は死んだはずだった。あの瞬間のことは今でも鮮明に覚えているのだから。目の前に迫ってくる鉄の塊。それを目の当たりにして動けなくなったポンコツな自分の体。今まで感じたことのない衝撃が一回、二回。熱くて痛くてそして寒くなって。そして、瞳を閉じた。

あれは紛れもない『死』だった。なのに私はまだ世界に存在している。


いや、正しい表現ではないんだと思う。『私』は確かに存在しているが『私』ではなかった。表現方法はたくさんあるのだろうけど、転生といった表現が一番しっくりくるように思う。

『私』の名前は遠藤渚。そして今の私の名前は幸村市花だ。


私は一般家庭よりも裕福な家庭に生まれ変わった。洋風な一軒家で生まれ変わる前の私の家のリビングほどもある部屋が私には与えられて。不自由という言葉なんてなかったと錯覚するくらいに。


でも、私は確かに不自由だった。


私には片割れがいた。双子の妹で名前を蜜香と言った。女の子同士の双子ではあるものの私と蜜香は似ても似つかなかった。まあそれは二卵生だからなのは明白なのだけど。

私は母さんに似た。ゆるく癖のついた藍色の髪と同じく藍色の澄んだ瞳。蜜香は父さんに似た。くせっ毛には羨ましいまっすぐな髪の毛。


物心がついたある日だった。


「アンタは人を殺して生まれてきたの。わかる?」


確信めいた様子で蜜香が私にそう言ってきた。その瞳に映るものが私は怖くて怖くて仕方なかったんだ。


「アンタは精市を殺してこの世界にいるの。だからアンタは精市にならなきゃいけない」


蜜香が言うには私は本当は生まれてくる予定だった精市という男の子を殺して精市の場所を奪って生まれてきたのだということ。精市居場所を奪った私を蜜香は憎いらしい。だから精市が歩むはずだった道を私が歩めと、そういうのだ。

初めは理解できなかった。

でも私は前世の記憶がある。実際に体験するまで前世なんてものを信じてはいなかった。それでも実際今の私には前世の記憶がある。遠藤渚だったころの。

私がこの世界に生まれてくるはずだった精市を殺したという非現実的なことを鵜呑みにするにはあまりにも私という存在が非現実的すぎた。


私はこうして幸村精市になったんだ。









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