『アリーヴェ、デルチ』


あの日、骸が私に残した言葉。意味が気になって調べたらこれがイタリア語だってわかって。そしてこれを翻訳すると「また、会いましょう」と言う意味だった。

嬉しかった。

あれから骸には会えていないけれど私はこの骸の言葉を信じている。骸は今頑張っているに違いない。なら、私だって頑張らなきゃいけない。


一人ぼっちだけど一人ぼっちじゃない。在り来りな言葉だけど、空はつながっているはずだから。


「幸村」
『やぁ、真田。それに柳も』
「元気そうだな」
『お陰様でね』
「ぶちょー!」
『赤也、ちゃんと練習してるかい?』
「モチロンっすよ!」


今日のお見舞いは真田と柳と赤也の三人。制服姿にラケバ。部活帰りの三人は疲れた様子を見せずに笑っている。


『冷蔵庫に飲み物が入っているから好きに飲んでくれて構わないよ』
「まじっすか!」
「いいのか?」
『こんなことで遠慮するような仲じゃないだろ?』
「じゃ、お言葉に甘えるとするか」


我さきにと冷蔵庫を開ける赤也。それを後ろからサポートする柳と見守る真田。変わりないようで安心した。


『ねぇ、真田』
「ん、どうした」
『俺って、どんな存在かな』
「急にどうしたのだ。らしくない」
『そっか……らしくないのか』


私の急な問に困惑を隠せない真田。柳も興味深そうに耳を傾けている。


『ねえ、真田。俺がもしテニスなんてそんなに好きじゃないんだとか言いだしたらどうする?』
「!?」
『あはは!そんな顔しないでよ。もしだよ、もし』
「もし……か。だがありえないな」
『?』
「お前を見ていればわかる。本当にテニスが好きだと」
『!』


真田の真剣な表情に今度は私が驚かされる。


「ぶちょー、どうかしたんすか?」
『んー……そうだな、赤也』
「なんすか?」
『俺がもし、女だったらどうする?』
「えっ!?」
『もしだってば』
「も、もしぶちょーが女だったらッスか……んー……どうも、しないっす」
『どうもしない?』
「いや、だって女だからって今までのぶちょーはぶちょーだったわけですよね?」
『そりゃあ、そうだよ』
「なら問題ないじゃないっすか!」


赤也は純粋無垢な笑顔を顔一面に作り出した。


『フフフ、アハハハハ!』
「ゆ、幸村?」
『いや、なんか俺が馬鹿馬鹿しくなってきちゃって』


確かに真田の目にも赤也の目にも柳の目にも映っているのは幸村精市なのかもしれない。でも私が幸村精市を演じていても、その言葉に嘘偽りはなかった。私が思ったことを少し口調を変えて言っただけ。私がしたいと思ったことをテニス部でもやってきた。そこにだって嘘偽りはない。

幸村精市も、私の一部分になっているんだ。


「精市」
『?』


柳がまっすぐこちらを向いている。目は開いていないけれど視線は確実に私に向いている。


「きっと、お前には俺の予想をはるかに超える悩みを抱えているのだろう」
『!』
「そ、そうなんすか!ぶちょー!?」
「……俺たちに言えない悩みなのかもしれない。だが、俺たちの絆はそう簡単に壊れるものではないぞ」
『や、なぎ、』
「たまには正面からぶつかるのも悪くないんじゃないか?」


フッと笑う柳に私も釣られて笑う。


私も逃げていただけなんだ。











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