夕暮れで橙色に染まった空の下。部活を終えみんなで帰路についていた。
数メートル先を仁王と柳生と赤也とブン太とジャッカル、そして蜜香が賑やかに歩いている。そして私と真田と柳が後ろからそれを見つめている。そんな図。
『ははっ、賑やかだね』 「そうだな」 「道端であんなに騒ぎよって……」
はっきり言えば中学生らしくないのがこの二人だ。だからこそ前世の記憶を持って生まれてしまった私からすると接しやすい。
といっても接しやすいだけでそれ以上のものはないのだけれど。
二人とも蜜香のことが好きなのだ。それが友愛なのか恋愛なのか私に知る術はないし知ろうとも思わない。それでも何処か淋しいのは少なからず私がこの二人のことを好きだからなのだろうか。
「精市」 『なんだい』 「蜜香は無理をしていないだろうな」 「それは俺も気になっていた」 「マネージャーの仕事は決して楽ではない。それを蜜香一人でやらせているのだからな」 『といっても他のマネージャーを入部させようとも思わないんだろう?』 「それはそうだが」
私の片割れは所謂「いい子」を演じている。非難するわけではない。なぜなら社会を生きていくには「いい子」を演じることもまた重要なことだから。
非力でか弱い。しかし気丈でいつも明るく笑顔。そんな夢のような女の子。それが私の片割れの蜜香だ。
かたや私は女として生きることを諦めざるを得なくなり趣味であるガーデニングや絵を描くことに費やす時間も限られたものになっている。女友達なんて皆無で私が昔夢に描いたような中学生生活とはかけ離れたものになっている。
「無理をして体を壊したりしなければいいのだが……」 『真田は心配性だなあ』 「む……しかし心配なのだ。蓮二、女子生徒の動きはどうなのだ?」 「そちらは問題ない。精市のおかげとも言えるが」 『俺は何もしていないさ。蜜香が大事な妹であることには変わりないけど』 「あぁ」
今思えば男子テニス部との会話はテニスのことか蜜香のことだけだったような気がする。私自身のことや私の趣味の話、昨日のテレビの話とかはしたことがないし逆もまた然り。
目の方に視線をやれば楽しそうに笑う蜜香。
するとこちらの視線に気がついたのか振り返った蜜香はエガをで手招きをする。
「弦一郎―っ!蓮二―っ!早く早く!」 「全く……」 「行くか、弦一郎」 「あぁ」
ふたりの歩くスピードはみるみるうちに早くなって、私を取り残した。
所詮、私なんてこんなものなのだ。
荒波が攫ってゆく
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