「よかったの?あれで」
『蜜香は確かに私利私欲に塗れてたけど、優秀なのは確かだしちゃんと分かりあえればって』
「お人好しだね」


白蘭はマシマロを一個、私の口に押し込んだ。


「ふふ、可愛い顔」
「白蘭……」


骸は持っていた三叉の槍を白蘭へ向けた。それなのに笑みを絶やさない白蘭は本当に大物というか。


「僕はそろそろいくよ。用事も済んだしね」
『白蘭、ありがとう』
「どういたしまして」


白蘭との別れはあっさりとした別れだった。なぜか、彼にはまたどこかで会えるような気がしたから。


『骸』
「はい、なんでしょうか」
『私ね、骸のことが好きだよ』
「えぇ、存じていますよ。僕もですしね」
『私ね、骸と一緒にいたいの』
「!」


私の言葉に骸の双眸がこれでもかと見開いた。そして苦しそうに顔を歪めると私を抱きしめた。


「それは、できません」
『なんで?』
「僕は、光を浴びれるような人間ではないのです。簡単に言えば犯罪者……僕はこの手で人を殺めたことがある」
『そんな気はしてた』
「僕も市花とは一緒にいたいと思います。ですが、僕と一緒にいると市花を危険に晒してしまう。僕にはそれが耐えられない」


苦しげに吐かれる言葉に骸の本心が乗っていて、骸が本当に私のことを心配してくれていることが伝わってきた。痛いくらいに抱きしめるその腕も、私に骸の気持ちを伝えてきてくれる。


「好きだからこそ、一緒にいることはできないんです」
『それでも、だよ』


私の言葉に肩を震わせる骸。私も骸を抱きしめる。


『危険でもいい……少しでも長く、こんなふうに骸を感じていたいって思う』
「市花……ッ!でもそれは、今の生活を捨てるということになるんですよ?親も兄弟も、友も、仲間も。せっかく誤解も何もかも解けたんですよ……?」
『だからこそ、私は市花として改めてスタートしたい。大好きな、骸と一緒に』
「……後悔、しないですか?」
『しないよ』
「嫌だといっても、手放してやれませんよ?」
『こっちこそ』
「……市花」


骸は綺麗な瞳を細ませて、私の額にキスを落とした。


「Ti amo」



深海で揺蕩う





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