「そこで、なんだ。みんな、話を聞いてくれ」
涙を拭った精市はキリっとした目つきでみんなを見渡した。
「俺はこの、この世界にはもう存在していない。この世界にいるのは間違いなく市花だ。だから市花のことちゃんと市花として見てやってくれないか」 『精市……』 「大丈夫だよ、市花。もう、君は君だから」
精市はその手で私の頭を撫でてくれた。私の手とは全然違う。男らしい努力した証のある手。
「本名を知らないからこう呼ぶけど、蜜香」
冷たい声が鼓膜を震わす。その声と共に蜜香の肩も震える。
「ここは世界だ。でも、君の世界なんかじゃない。いや違う。君の、個人の世界なんて存在しない。市花のことを苦しめるのはもうやめろ。そしてそれを罪として受け止めろ」 「私は、みんなに、愛されたかったのに、愛されたかっただけなのに……」 「愛されるために人を傷つけるのかい?君は」 「だって、アイツは精市の成り代わりだって、思って」 「身勝手だよ、そんなの。そんな考えをして愛されようなんて虫が良すぎるとは思わないか?」 「何がわかるの!?私の気持ちなんてわからないでしょ?!」 「わからない、わかりたくもないね」 「っ!」
精市は言う事は全て言ったと、白蘭と骸を見つめた。
「今回はありがとうございました」 「満足かい?精チャン」 「あぁ」 「それはよかった」 「六道、骸さん」 「なんでしょう」 「……市花のこと、大切にしてやってくださいね」 「約束しましょう」
精市は私を向き直った。
「この世界は確かに君が生きる世界だよ、市花。自分のしたいことをすればいい」 『ありがとう、精市。ありがとう』 「こちらこそありがとう」
綺麗に綺麗に笑った精市は、霧のように消えていった。
「もう、やだ。なんでこんなにうまくいかないの……」
震える声で搾り出すようにしてつぶやいた蜜香。その目にもはや生気はなかった。
「まず、あんたたちだれよ!せっかく死んだと思った市花を助けて、意味わかんない!あのままコイツは死ぬはずだった!そうでしょう!?」 「そういうことか、」
納得が言ったように柳がそうつぶやいた。
「気になっていたんだ。この交通事故は何かがおかしいと。それの違和感が今全て解決した。蜜香、お前だな?幸村をいや市花を道路に突き飛ばして事故を起こしたのは」 「「「!」」」 「そうよ、えぇ、そうよ!私がそう仕向けたの!コイツが死ねばきっとみんなは私だけを見てくれるようになると思ってね!でもコイツは生きてる!ほんと、やってらんない」 「てめぇ……!!」 「もういいわ、こんな世界にいる意味ない」
蜜香は全員を一瞥すると病室を飛び出した。
『真田!追いかけて!』 「ム、」 『蜜香、死ぬ気だよ!だから追いかけて!!』 「幸村、」 『これでも双子なんだ、考えてることくらいなんとなくわかる!それに蜜香が死んで解決することなんて何もない!やり直すこともできなくなるぞ!』 「いくぞ、お前たち!」 「あぁ」
真田の言葉に全員が蜜香の跡を追っていった。
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