「話が、見えないのだが」


口を開いたのは柳だった。無理もない。


「それもこれも、精チャンを呼んだ方がわかりやすいと思うよ」
「その精チャンというのは、誰なんだ?」
「幸村精市クンだよ」
「それは、一体……」
「わけわかんねぇよ!ぶちょーはそこにいるじゃねえか!」
「だから、そこらへんは精チャンを呼んだ方がわかりやすいって言ってるの!」


めんどくさいなぁと頬を膨らませる白蘭はマシマロを口に含み始めた。白蘭はきっとすごく頭がいい人なのだろう。


「骸クン、準備いい?」
「……えぇ、いつでも」


どこからか取り出した三叉の槍をコンッ!と床に叩きつけると目の前には私とそっくりな、でもどこか違う彼、本物の幸村精市が現れた。


「……久しぶり。また会えたね、市花」
『久しぶり、精市』


久しぶりに会った精市はどこか明るく見えた、明るい、というよりもどこか吹っ切れたとでも言うか、何かを決意したように見えた。


「みんなも久しぶり。いや、この世界の皆にとって俺は初めましてになるのかな」
「幸村、なのか?」
「紛れもない、幸村精市だよ」
「ぶちょーが二人?いや、でも、どこか違う……」
「そうだよ、赤也。俺たちは同じだけど違うんだ」


ふんわりと笑った精市は赤也の頭をふわふわと撫で上げると柳を見つめた。


「時間があまりないからね、とりあえず柳、理解してくれ」
「……承知した」


この中で一番理解が早いであろう柳に向かって話をすることに決めたのだろう。いい判断だと、私も思った。


「非現実的かもしれないが、この世にはパラレルワールドというものが存在するんだ」
「平行世界か。非現実的ではあるが否定できない事例であることは間違いないだろう」
「話が早くて助かる。そして俺は、そんなパラレルワールドを覗き見ることができたんだ」
「それは、」
「ある意味で、未来を覗き見ることができた、とも言えるだろうね」


悲しそうに笑う精市に柳も言葉を詰まらせた。


「そして俺はある日気がついてしまったんだ。俺の望む未来はどの世界にも存在しないんだって」
「それ、どういうことだろうか」
「全国大会決勝。俺は、どの世界でもあの坊やに負けてしまうんだよ」
「「「!」」」
「戦況の差異はあれど、最終的には俺が負けて立海は準優勝。そんな未来しか、なかったんだ」
「だが、」
「前に進むこともできた。でも、俺はもう嫌になってしまったんだ。この力にも、俺自身にも」


そして精市は私を見つめた。


「俺は立ち止まって、逃げて、そして蹲った。でも世界は構わず回るんだ。だから、俺は、俺の代わりに市花をおいた」


柳は開眼し私を見つめてきた。同様に、あの蜜香も。


「彼女は幸村市花。俺であって俺ではないこの世界に生きるひとりの人間だよ。少なくともそこにいる彼女とは違う」


そう言って精市は蜜香を睨んだ。


「話はなんとなく掴めたが、それと蜜香に何の関係が……」
「本来なら俺の代わりとはいえ、市花は市花としての人生を歩む予定だったんだ。幸村精市としてではなく、きちんと幸村市花として」
「だが、市花は精市になっていた……」
「その理由が、彼女、蜜香だよ」









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