手術は2時間以上に及びました。しかし手術室から出てきた白蘭はいつも通りの笑みを湛え、成功したよと言った。
病室へと運ばれた市花の顔はどこか辛そうに見えた。否、辛いのでしょう。今もなお心で傷ついているに違いない。
「言わなくてもわかってると思うけど、あとは市花チャン次第だよ」
病は気からという言葉がある通り、あとの回復は市花の精神次第ということ。
「助けに行く?」 「それこそ、言わなくてもわかっていると思うのですが」
僕はそばにあるパイプ椅子に座り、市花の手を握った。そして精神の闇へと身をゆだねた。
「市花はどこでしょうか」
精神世界はそう単純ではない。はっきり言えば僕が凪を見つけたのもそして市花に出会ったのも偶然。
周りを見渡しながらも歩みを止めることはない。どこかで痛みに耐えている市花を一刻も早く見つけ出すために。
「市花、市花」
この声がどこまで届いているのかはわからない。でもきっと、ここが彼女の精神世界なのであれば、この声は彼女に届くに違いないから。
「市花、聞こえますか?」
足元に咲くスノードロップが頷いたように見えた。
「僕は、貴女に会いに来ました。僕は待っていますよ」
一度世界に閉じこもった彼女のために、僕はあの監獄から出ようと決心した。それだけじゃない。ちゃんと、精神世界なんかではなく実際にこの目で彼女の笑顔を見たいとそう思ったから。
「僕は約束を守ります。だから、僕に約束を守らせてはいただけませんか」
あの時に誓った。また、会うのだと。
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