まだ、ガラス越しに眠る幸村は生きているのに、病室はさながらお通夜状態だった。無理もない。ご家族、そしてレギュラーメンバーが揃ったところで改めて医者が幸村の状態を話してくれた。
まず、臓器の損傷。これはドナーがあれば何とかできるらしい。しかし、問題はここから。臓器に関わる神経系が機能を停止しているらしい。つまり損傷した臓器のドナーが見つかったところで、その神経系が回復しなければ臓器が機能することもない。
そしてその神経が回復すること、もしくは回復させることは現代医療では不可能。
今は臓器が働いていた頃の働きが機能しているから落ち着いているが、その働きが切れ次第、容態は悪化。もって3日の命。
そう言って医者は頭を下げると病室をあとにした。
「ぶちょー……」
赤也は目を真っ赤にしながら泣いている。仁王も窓際でうずくまっている。そのそばには柳生。真田はずっとガラス越しに幸村を見つめている。丸井とジャッカルも嗚咽を漏らしている。
交通事故だった。よくある、車が歩行者を轢いた交通事故。夕方の交通量の多い道路。しかし見通しは悪くない道路だった。そして警察の話によれば車道の方の信号は確かに青で、強者側とは言え車の運転手の罪は、思ったほどに重い罪にはならなそうである。
そう、幸村の道路への飛び出しというのがこの事故の結末らしい。
運転手の方も非がないとは言え、深く反省していると医療費はもちろん、何かあったときはどんな手助けもすると申し出ているらしい。
この事故の本質は、もっと別のところにあるような気がしてならないのだ。
事故が起きてから早4時間。もう午後9時を過ぎていた。面会時間は過ぎていたが事情が事情だと、あまり騒がないことを理由に滞在を認められまだ居座っているわけだが。
唐突に病室の扉が開いた。
幸村の両親かとも思った。今、生活用品を揃えに外に出ているのだ。この場にいるのはレギュラーメンバーと蜜香だけ。
しかし、違った。
「誰……?」
最初は幸村の親戚かとも思った。しかし蜜香が「誰」と言ったのだ。血縁者ではないのは明らか。医者や看護師でもない、この病院にいる患者、というわけでもなさそうだ。
「市花」
そう呟いたオッドアイの男はガラスにそっと触れ、眉をひそめた。
「……白蘭、治せそうですか」 「確か臓器神経の欠落だったよね。何とかなると思うよ」 「なんとかなるでは困るのですが……?」 「知識はあるけどそれを実行するのはなかなか難しいんだよ?僕だって万能じゃないさ」 「どの口がほざくんですか」
誰かというのは気になる点であるがそれよりも、今の会話の方が気になった。
「治せるのか……幸村を……」
今の会話はまるで、幸村のことを治せるという話ではなかったか?俺の思考回路が正しく機能していればだが。
「治せるよ。成功確率は低く見積もって7割」
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