私のプランは完璧だった。誤算はただ一つだけ。この世界の“本当の”幸村精市がいなかったこと。でもそれだってなんとかした。なんとかした、つもりだった。

原作をねじ曲げるなんて、そんなことするつもりはなかった。だから原作通りに立海は青学に負ければいいと思っていた。負けたあとに悔しさをにじませればいい、うまくことは運んだ。

あとは負けたあと、みんなを私が元気づければ全て終わる。私の望んだ世界が作り上げられる。そう思っていた。

なのに、

なのに、なのに、

あのクソ女のせいでみんな私の手を借りずに立ち直ってしまった。

私の計画が夢が希望が未来が、世界が、あの女にめちゃくちゃにされた。

許せない。許すことなんてできない。


『蜜香?何、こんなところに呼び出して』
「たまには一緒にお茶でもいいかなって思っただけよ」


学校終わりの車道沿いにあるカフェ。そこに私は成り代わり女を呼び出した。


「好きなもの頼んでいいわよ。奢ってあげる」
『え、でも』
「別にいいじゃない」
『今度、何かお礼をするよ』


お礼なんていらない。それに精々美味しいお茶を楽しむといいわ。

なにせ、それが最後の食事になるんだから。


「そろそろ帰りましょうか」
『そうだね。今日の夕飯は何かな』
「さぁ……なにかしらね」


空が綺麗なオレンジ色。夕方ということもあり帰宅を急ぐ車が目の前を通り過ぎていく。少し遠くに見える横断歩道の信号は赤。この信号が青になるには、まだ時間がかかる。この道をもう何度歩いたと思っているの?飽きるほど歩いたわ。


「……ばいばい、偽物さん」


目の前で見慣れた身体が宙を舞った。



優しいだけが海じゃない





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