小さな声なんだろうが聞こえてくる罵詈雑言。なにが王者だ、なにが常勝だと嘲笑う声。神の子なんて大げさな、なにが皇帝だ達人だ。突き刺さる言葉のナイフ。
違うだろ。そうやって持て囃したのがお前たちだろ。勝手に期待して勝手に落ち込んで勝手に罵っているのはそっちだろ。テニス部は努力をした。努力を怠らなかった。頑張った。いや、頑張ったなんて言葉では安いくらいに練習をしたんだ。
馬鹿にされる要素なんて、何一つないんだ。
「幸村」 『柳に柳生。どうかした?』
今日の練習も終え、帰る支度をしていた私に声をかけてきたのは柳と柳生だった。
「いや、気にしているかと思ってな」 『心配してくれたのかい?』 「まぁ、な」 『ありがとう。でも、俺は大丈夫だ。それより柳生に謝りたいと思っていたんだ』 「私に、ですか?」 『試合に出させることができなくて、すまなかった』 「それは、幸村くんが謝ることではっ!それに、私はあのメンバーが最善だったと思っています。だから、お気になさらず」 『そう言ってくれると、嬉しいよ』
なにより俺が気にしていたのは試合に出ることなく敗北を受け入れることになった柳生だった。でも、その心配は杞憂だったようだ。
「幸村」 『なんだい?柳』
私に声をかけた柳は目を開きながら私を見つめていた。
「どうしてお前は、そんなにも堂々としている?」
純粋な質問だったんだと思う。でも、そんな質問なんて必要ないんだ。
『やれることはやった。それで負けた。あの試合を何度も思い出すけどやり残したことなんて何もないんだよ。後ろめたいことなんてなにもないさ』 「幸村……」 『力不足は認めるよ。だからこそ、周りの言葉に負けている暇なんてない。常勝立海、だろ?』 「あぁ……そうだな。すまない」 『謝らなくたっていいだろ?さ、帰ろうか』
私はカバンをもって部室をあとにした。後ろから柳と柳生もでてくる。
柳も柳生もすっきりとした表情だ。きっとそれは私も、なんだろうけれど。
「幸村、実は神奈川に向日葵畑の穴場があるんだが」 『へぇ!それは見てみたいなあ。一面向日葵ってことなんだろ?』 「そうだ」 「それはすごいですね」
まだ、私たちは中学生。
どんなにすごくたって中学生なんだ。
普通に笑って、普通に怒って、普通に泣いて。誰にも咎めることなんてできない。まだまだ、子供なんだ。
その日の帰りはずっと、笑っていたきがする。
そんな私たちを、彼女が見ていたなんて、気づかなかったけれど。
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