「落ち着いたかい?」 『っ、はいっ、ごめんなさい、急に、私……』 「しょうがないさ。ほら、あーん」 『あ、あーん?』
急にあーんと言われ、言われるがままに口を開けば柔らかな舌触り。
「甘いものは美味しいよね」 『そう、ですね』 「人の幸せってそれぞれだと思うんだ」 『……』 「人によってはこんなふうに甘いものを食べて幸せを感じる人もいるわけじゃない?」
ふにふにと手でマシュマロを弄びそして口に運んでゆく白蘭。
「キミは誰?」 『私は、』 「ふふっ、キミはキミの幸せを探してみたらどうだい?幸村精市はそれを望んでるからね」 『あ、』 「もう一つあーん」 『あ、あーん……』
恥ずかしさ100倍だけれど断るわけにも行かず口を開く。そして柔らかくて甘いマシュマロが口の中で溶ける。
甘くて美味しい。柔くて優しくて。
「さてと、僕はそろそろ帰ろうかな」 『あ、今日はわざわざありがとうございました』 「んーん、気にしないで。僕がしたくてしたことなんだしね」
ニコリと効果音がつきそうな綺麗な笑みを浮かべ席を立つ白蘭。そして扉に手をかけた時に何かを思い出したかのようにあ、と声を漏らした。
「そうそう」 『?』 「君には今信じれる人がいるだろう?」 『え……あ、はい』 「信じるっていうのは案外難しいことでね、そうそうできることじゃないんだ。でもそれが出来ているってことは素晴らしいことであると同時に大きな力を持っているということなんだよ」 『信じる……』 「そこまでは僕の干渉できる部分じゃないから……そっちは彼に任せても問題はないだろうしね」 『え?』 「ふふっ、頑張って」 『あ、はいっ!』 「じゃあね、市花チャン」
そう言って今度こそ白蘭さんは病室をあとにした。
窓の外を見ればもう陽は沈んだようで藍色と橙色がグラデーションを作り出していた。
『はぁ……』
私が知らなかった事実。白蘭が嘘をついているとは到底思えなかった。ならなぜ蜜香は嘘をついていたのだろう……。わからない。
全ての情報があまりにも現実離れしていて全てを理解するにはまだ時間がかかりそうな気がした。
『とりあえずはこの病気、かな』
私は体制を整えてそして瞳を閉じた。
時には海の方が暖かい
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