『こ、こは……』
ふと、目を覚ました。知らない天井知らない香り。
「精市!」 「あなた!直ぐにお医者様を!」 『父さん……母さん……』
傍にいた父さんと母さんは慌てた様子で部屋から出ていった。そして部屋にいるのは蜜香と真田と柳で。
『ここは……?』 「ここは病室だ、幸村」 『病室……あ、』
思い出した。確か練習中に急に体が言う事を聞かなくなってそれで……
『っ』
思い出したら急に怖くなった。あの体が動かなくなっていく感覚が一度体験している「死」にとても似ていたから。
「病名は未だはっきりしないらしい。暫くは検査入院をすることになるそうだ」 『苦労を、かける……』 「精市は頑張りすぎなんだよっ!これを機に少しお休みをとれって多分神様が言ってるんだよ!ね?」 「そうかもしれないな」 『すまない……真田、柳。部活、よろしく頼むよ』
私が目を覚まし会話をして安心したのか真田と柳は病室をあとにした。すると直ぐに医者を連れた両親が戻ってきて軽い検査が行われた。検査入院は1週間だそうで。
両親は一週間分の荷物を取りに自宅へ。今この病室にいるのは私と蜜香だけだ。
「もうこんな時期なのねー」 『どういうこと?』 「精市は一度大病を患って倒れるのよ」 『し、知ってたっていうの……』 「もちろん。精市のことは私が一番知ってるんだから!」
キッと私を睨みつけてくる蜜香。その鋭い視線が怖くて、私はすぐに視線をずらす。
「でも安心していいわよ。大病だけどちゃんと治るから」 『……』 「なによ」 『いつ、治るの?』 「来年の全国大会前よ」 『そ、んな!』
あと約半年は闘病生活を送らなければならないというの?
それに、あと半年はテニスができない。
蜜香に話を聞く限り精市にとってのテニスは命と同じ重さ。とても大切にしていたもの。それをあと半年もできないだなんて。いくら最後の全国大会に間に合ったとしてもそんなのはあんまりだ。
でも、これも機にテニスをやめるという手だってあるのではないか?
そんな考えが頭をよぎった。
幸いなことに私は絵が描ける。美術部に入部するというのもひとつの手じゃないか?
でも、それじゃあ精市が……。
『蜜香、眠いから寝てもいいかな』 「ふぅん。ま、いいけど」 『母さんと父さんにありがとうって伝えておいて……おやすみ』
私は夢の中に逃げた。
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