レンリツ方程式 | ナノ





『着々と揃ってくね、証拠物品』
「ケケケ、あいつ全く気付いてねぇぞ」
『でしょうね』
「全く、お前らのことは敵に回したくないな」
「『褒め言葉として受け取っておくよ』」


私は冷えたタオルを左頬に押し当てたまま妖兄から本日のデータを受け取っていた。きっと今日のデータは昨日の比ではないんじゃないだろうか。


『今日の、多いでしょ?』
「たりめーだろ」
「それは自分が一番よくわかっているのではないのか」


二人とも私を睨みつけてくる。私は苦笑いを作り出すしかない。


『にしても、気持ち悪いったらありゃしない』


ボフン、とベッドに仰向けになり私はため息を吐いた。


「何がだ。気分でも悪いのか?」
『んなわけないでしょ、そんなマジレスいらんし』
「ま、まじれす?」
「ちょっと黙っとけ」


流石は時代錯誤というべきか。まあそこが弦一郎のいいところでもあるのだろうけど。良くも悪くもまっすぐなところ。私にも妖兄にもないものだから。


『気持ち悪いのはまんまと補正にかかってるやつらの方』
「だろうな」
「?」
『恋は盲目なんてよく言ったもんだけどさ、あれははっきり言って、ないわ』


思い出すのは完全に思考を停止した彼らの姿。同じ過ちを一日で3度も繰り返そうとするだなんて。そして今も彼らはその過ちに気がついていないのだろう。それどころか彼らは宝華梨々を守っているという偽善からなる正義感で胸がいっぱいといったところか。


『哀れで惨めで見ていられないわ』


よいしょ、と私が上体を起こせばいつになく真剣な表情の妖兄がそこにはいた。


『妖兄?』
「……逆ハー補正。神だかなんだかしれねえが介入者が施す言わばチートな設定ってやつだ。しかしどうだ?普通逆ハー補正をその介入者が施したとしてこんなにも不安定で不完全なものなのか?」


妖兄の言っていることには一理ある。実際に逆ハー補正を受けたことはないからわからないけれどあまりにもお粗末な補正だ。実際問題この合宿に参加している30人あまりで逆ハー補正の補正にかかっている人物は半分もいない。


「確かにそれは俺も感じていた。妖一からの説明を受けたときもっと深刻な状態になるものだとばかり思っていたからな。こういってはなんだが拍子抜けだ」
『まあね。何が作用しているのかは知らないけど、きっとそんな万能なものではないのかもしれない』
「狙うならそこか」
『……妖兄、宝華梨々はいまどこ?』
「向日、忍足の部屋だ」
『五階か』


こんなことを言うのもなんだがマネージャーの仕事はしんどい。すべての仕事を真面目にこなしていたら他人の部屋に遊びに行くだなんて余裕は一切ない。はっきり言えば私も今すぐ寝たい。でも一先ずはお風呂に入らなければならない。さっき埃被ったし。


「随分と余裕じゃねぇか」
「たるんどる!」
『げんいちろーうるさーい』
「う、うむ」


私はベッドから降りる。机の上にタオルを置いてデータの入ったUSBをポケットに入れた。


「行くのか?」
『行くよ、眠い。その前にお風呂』
「風呂で寝んじゃねぇぞ」
『あー……』
「おい」


もう一度言おう。めっちゃ眠い。朝4時に起きて30人分の食事作り。そしてドリンク作りにタオルやジャージの洗濯、掃除。そして頭をフル稼働。

私は万能ではない。普通でもないだろうがただの女子高校生なことに変わりはない。


『おやすみ』
「あぁ」
「おやすみ」


ググッと伸びをすれば肩まわりからパキっと音がする。年寄り臭っ!と思うが致し方ない。


私は宣言通りお風呂へ入りそして直ぐに眠りについた。




知る人ぞ知る苦労



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