レンリツ方程式 | ナノ





午後の部活も代わり映えしなかった。

ドリンクは私が作ったものをぶんどり、タオルもぶんどり、そして黄色い声を上げているだけの宝華梨々。私はドリンクをつくり球拾いをしてボールの分別を行う。暇があれば洗濯をしに行ったり食事の下ごしらえをするために宿舎内へ戻ったりした。

夕食は宣言通りカレーにし、甘口と中辛と辛口の3種類の辛さで作った。そしてその全てが空になり嬉しいような悲しいようなため息を吐きながらカレーまみれの大鍋をタワシでこすった。

そして昨日と同じように洗濯とボトル洗いを終えた私は妖兄からデータを受け取るために立海のスペースである4階へ向かおうと階段を登った。しかし、3階のスペース……つまり青学のところを通りかかった時だった。


「おめぇ、蛭魔じゃねぇか」
「お、丁度いいじゃないっすか!ね、菊丸先輩!」
「それもそうだにゃー」
「蛭魔、用事があんだけどついてきてくれるよな?」


青学の海堂薫と桃城武、そして菊丸英二と遭遇。めんどくさいことになりそうだ。


連れてこられたのは乾燥室の隣にある用具室だった。箒や大型の掃除機などがおいてあり、用具室特有の埃臭さがそこにはあった。


『用事があるなら早く済ませていただけないですか?暇じゃないので』
「生意気だにゃー」
「どうせ梨々先輩いじめんのに忙しいんだろ!」


いや、それどこの暇人だよ。というツッコミは心の中にしまっておく。逆上されてもめんどくさいから。


『私はいじめてなんかいません』
「嘘つくな!」
『いじめる理由がないです!』
「どうせ僻みだろ?」
「そうだにゃー!どーせ、可愛い梨々に嫉妬してんだにゃ!」


にゃーにゃーうるせぇなこいつ。まあいい。


『確かに宝華先輩はすごく可愛いと思います』


顔だけは。


『でもだからって僻みで宝華先輩をいじめたりなんかしません。そんな暇があったら自分磨きします』


ちなみに今まで言っていなかったが、私は氷帝に入学する際に少々イメチェンをした。今まで横に流していた前髪を降ろし目の下あたりで切りそろえ、出していた耳も髪の毛で隠れるようにした。両耳にピアスホールが一つずつあるのだがそれも隠している。

そしてなにより、レンズ厚めのメガネをかけているのが何よりだろう。といってもレンズに度は入っていない。所謂伊達眼鏡だ。

……忍足侑士とは一緒にされたくはないけど。

つまり何が言いたいかといえば、私は黒髪で目が隠れる程度のぱっつん前髪の持ち主で、レンズの分厚い眼鏡をかけている容姿なのだ。そう、ぱっと見根暗な女子にみえるわけ。

それでも話してみれば明るいからとクラスでは仲の良い女の子がいっぱいいるわけだけれど。

だから第一印象的な意味では宝華梨々の方が良い印象を受けるだろう。

でも勘違いしないで欲しい。自慢するわけではないが私だって容姿には自信がある。なんたって兄はあの蛭魔妖一なのだから。


「お前がなんと言おうとな!梨々先輩が泣いてんだよ!」
「そうだそうだ!」
「許せねえよな……!」


どうやら逆ハー補正というものは学習能力を奪うらしい。今日似たような状況に二度もなり、そしてそのどちらも正論でねじ伏せられたというのに性懲りもなく暴力に手を染めようとしている。

そして私は、殴られた。


『ッ!』


衝撃に耐えられなかった私は後ろに倒れ尻餅をつく。そしてその拍子に立てかけられていた箒が雪崩を起こした。

ガシャンと大きな音を立てて倒れた箒。そのせいで埃が舞い上がり私は思わず噎せる。


「いいか、今度梨々先輩を泣かせてみろ。これじゃすまないからな」


そう言い残すと三人はその場を去った。


『ゲホッ!ゲホッゲホッ!あー埃まみれ……まだお風呂入ってなくてよかった』


私は箒をどけて立ち上がるとパンパンと埃を叩いた。


はっきり言おう。先ほどのアレを私は避けることができた。しかし避けたところで彼らを逆上させるだけだとは目に見えていたから避けなかった。そしてやり返すこともできたけれどそれもしなかった。

正当防衛をご存知だろうか。

自分の身が危機に迫ったときは抵抗するためにも自身も他人の権利を侵害しても構わないというものだが、これを多く誤解している人がいる。

これ、実はかなり厳しいものなのだ。いくら正当防衛とはいえ武器を持てば武器を持ってしまったほうが強者となり武器を持っていな方が弱者となる。いくら襲ったほうが悪かったとしてもそれに対抗するために武器を持ってしまっては正当防衛は成り立たない場合がある。

それと同じように空手の有段者柔道の有段者なども正当防衛が成り立たない場合がある。ボクシングをしているものが人を殴らないというのはそれだ。

この場合彼らが私を殴ってきたとして正当防衛を理由に私がやり返してしまうとソレが正当防衛にならないのだ。なぜなら私は空手の有段者だから。

まあ今の場合3対1だから何とも言えないが。


『まったく、無駄に知識があるっていうのも困ったもんだよ』


この時ばかりは自分の頭の良さを恨むというか。やっぱり人間平凡くらいがちょうどいいよ。うん。

私は少し熱を持った頬をさすりながら妖兄の部屋を目指した。


『妖兄―』
「開いてる」
『しつれいしまーす』


妖兄は弦一郎との二人部屋らしい。部屋に入ればパソコンを大量に広げた妖兄とベッドの上でストレッチをする弦一郎がいた。妖兄はパソコンに視線を向けたままだ。そして弦一郎はちらりと私を見やりそして、


「なっ!?」


声を荒げた。弦一郎の声うるさすぎ。


「おい、うるせぇよ弦一郎」


そういって顔をしかめた妖兄もこちらを振り向き目を見開く。そして一気に不機嫌な顔になる。


「弦一郎タオル冷やしてこい。冷凍庫に氷も入ってる」
「あぁ」


そう言って弦一郎は洗面所へと姿を消す。妖兄は私の腕を引き自身が使っているベッドへと座らせた。


「誰にやられた」
「青学のメンツ。場所は乾燥室のとなりの用具室。ちなみに監視カメラつけてるよ」


私がそういえば素早くパソコンを操作し今さっきの映像を再生させる。

一通り見終えた妖兄は重いため息を吐いた。そうしていれば左頬が冷たくなる。


『ありがと、弦一郎』
「礼には及ばん。しかし女が顔に傷をつけるというのは、」
「ケケケ、宝華梨々にんなこた言わねえくせに」
「……あいつは別だろう」
「ケケケケケ」


私は弦一郎からそのままタオルを受け取り頬を冷やした。



能ある鷹は爪を隠す



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なんかヒル魔さんに違和感を感じると思ったら糞○○って言ってないからだって今気がついた。



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